虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第二回家族イベント前篇 その03



 エキシビションマッチ、風兎VSエクリの闘いが繰り広げられている。
 エクリの発動した『プログレス』、それはショウの『ブレイブソウル』だった。

 本人の『コレクトキャプチャー』により、既存の『プログレス』すべての再現ができるという超絶チート。

 しかも、本来であれば必要な能力ストック制限による取り捨て作業も、『プログレス』に限ればいつでも好きなように切り替えることができる。

『なかなかやるな』

「さすがはクローチル様。ここまでの差があろうと、それを覆しますか」

 そして生体人形としての機能に、エクリは実力擬装という能力が備わっていた。
 要は能力値を最大値以下に弄れるのだが、この能力は『ブレイブソウル』と相乗する。

 ショウの『ブレイブソウル』は、相手に劣る能力値の数だけ全能力値を倍加していく。
 エクリはそれを上手く利用し、すべての能力値が劣る状態を作り上げた。

 あくまで強化後の数値は判定には用いられないので、発動後は元に戻すだけで更なる強化を図れる。

 よって、現在風兎は圧倒的にスペックで劣る状態で戦っている……のだが。
 重傷を負うことなく、今なお戦い続けられているのは、風兎の才ゆえだろう。

 エクリが生み出す数多の闇に対し、風兎は自身と『プログレス』によって生み出す風を自在に操ることで対処する。

 加速、減衰、曲折、空歩……風を道や足場にして、物理法則ではありえない挙動を取りエクリを翻弄していた。

「──“千変宝珠・万能ノ乙女アインヒルド”」

 だが、そのまま黙っているわけでもない。
 エクリは魔術を発動させ、その身に特殊な術式を取り込む。

 同時に、闇の一部を切り取るとそれらを無数の武器に作り替える。
 そして、闇そのものを衣服のように纏って身体強化──風兎に猛攻を仕掛けた。

「す、凄ぇ……」

「クローチルさん、前に会ったときより格段に強くなっている」

「エクリちゃんも、本当に凄いわね」

 エクリに記録された『バトルラーニング』の膨大な戦闘データ。
 それにより、『SEBAS』の補助なしでそれらを最適な形で用いることができる。

 また、魔術“千変宝珠・万能ノ乙女”の力もその補助を行っていた。
 普段は武器の切り替え速度に特化した魔術だが、取り込むと武器の扱いが上手くなる。

『なるほど、たしかに厄介だ……しかし、それでもまだまだだな』

「くっ……これほどとは」

 風兎はそれに対し、蹴り返したり躱したりの繰り返し。
 エクリは闇を適時、形を変えて捕縛しようとしているが……すぐに避けている。

 盛り上がる会場、この戦いの果てに何があるのかを楽しみにしていた。

≪──はい、ここで終了です! 残念ですがこれもルールの一つ、一定時間経過での試合終了が適応されます≫

 だが、そこで俺のアナウンスによりエキシビションマッチの終了が告げられる。
 ……いや、たしかに気になるけど、玄人同士の戦いは長引くだろう。

 というわけで、不服そうな魔物たちを宥めながら大会開始を宣言。
 まずは第一試合の準備──転送陣を二ヵ所に展開するのだった。


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