虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第二回家族イベント準備 その05



 生産世界からの要求に対して、俺はある程度の譲歩だけして依頼を引き受けた。
 ただし、技術のいっさいを見させはしないので、解析するなら頑張ってもらいたい。

 交渉はギルド長がやってくれるので、その辺りは考えなくてもいいのが楽だ。
 ……それよりも今は、本来の約束相手と会う際のことを考えなければ。

「お、おーい、『騎士お……う」

「──ああ、其方であったか」

「……お、遅れてすみません」

「遅れる? そうか、例の件だな。気にすることは無い、星間交渉は国同士のやり取りよりも重要視されること。何ら問題ない」

 いつもの串焼き屋で、彼女──『騎士王』は俺を待っていた。
 ただし、普段と違い政治的な場で用いるような態度をしながら。

 ……あー、これ絶対怒ってるな。
 ただ、自分にも何割か責任もあるし、帰るという選択肢はありえないから、とりあえず怒ってます……みたいな感じかもしれない。

「──『流燦杖』」

 ビクッ

「[ドラグライズ]、大衆の前……」

 ビクッ ビクビクッ

「……俺一人が悪いわけじゃ、ないよな?」

 かつて、『騎士王』が振るうのに相応しい鑓を創ったことがある。
 だからこそ、俺に生産チートがあると知っていた『騎士王』……だというのに。

 大衆の面前でそれをやらせりゃあ、こうなることはコイツにも予期できた。
 俺も引き受けたし、責任はある……だが、利用しているのは主に『騎士王』である。 

「『騎士王』、とりあえず口調はいつものやつに戻してくれ。じゃないと、俺も面倒臭く感じる」

「……『生者』」

「そのうえで、だ。さっきまでのやり取りはちゃんと伝える──だから、俺の手伝いをしてくれないか?」

 そう問いかけると、しばらくした後に首を縦に振る『騎士王』。
 何でもできる万能な『騎士王』なので、常人では思いつかないいいアイデアをくれる。

 ──そう、家族を楽しませるためには何をすべきかを教えてもらおう!

  ◆   □   ◆   □   ◆

「…………なあ、私もそれに──」

「ダメ」

「少しぐらい──」

「ガウェイン──あっ、ボタンを壊すな!」

 国政を放り出して、アイスプルに来ようとするから悪いんだ。
 事情を説明した後、向けられたのは期待の眼差しである。

 この世界──冒険世界において『騎士王』は無くてはならない存在。
 一瞬ならともかく、絶対に長期滞在を望んでいる。

「まあとにかく、とりあえずしばらく空けるからその間のフォローを頼みたい。何か、問題はあるか?」

「……いや、構わん。それぐらいならば、片手間でできるからな。しかし、一度は行ってみたいものだな」

「本当に一度切りなら、考えるけどな」

「…………」

 座標を知られれば、いつでも潜り込んでくる気がするからな。
 何でもできちゃう相手に、そこまで教える義理など無いのだ。


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