虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

探索イベント後日談 その06



 機械仕掛けの虎の修繕。
 創造神の権能を人の身にアジャストしたスキル:DIY:を用いてもなお、その作業には長い時間を要した。

 それだけ複雑な機構だったからだ。
 設計図を知る術、そして同種の機体を保有しているからこそ、それだけの時間で済んだとも言うべきか。

「──苦節、三日。とうとう完了だな」

 目の前には現実では見ることなどないであろう、30mという巨体を誇る虎が。
 鎮座したその機体を前に、俺は最終チェックを行う。

 無残に破壊された全パーツを直し、そのうえで傷消しや塗装などもやっている。
 お陰で再び色艶を取り戻し、やや神々しい風格すら醸し出していた。

「うん、問題なしだな。『SEBAS』、システム面でのチェックはどうだ?」

《全プログラムの精査が完了しました。意図した部分を除き、すべてに問題が無いことが確認されました》

「了解。じゃあ、始めようか──メカドラ」

『ギャウッ!』

 呼び寄せたのは、子供の胸に収まるような小さなサイズのドラゴン。
 だがしかし、その正体こそ──願望機の一機である龍型だ。

 俺たちの間では『機星龍メカニクルスタードラゴン』、通称メカドラで通っている。
 そして、彼(?)には今回、虎型の起動を行うという重大な使命を与えていた。

「人が起動すると、いろいろとチェックが入るらしいからな。お前が覚醒プロセスを実行させてくれ……叶える願いはあっても、叶えたい願いは無いからな」

『グッ、ギャウッ!』

 任せろ! と言わんばかりにメカドラは器用にサムシングポーズを取る。
 ……いったい誰だ、そんなことできるように仕込んだのは。

 ともあれ、メカドラは小さな羽をパタパタ動かして虎型の願望機の鼻先へ向かう。
 そして、その場で何かをしてから──今度は叫びをあげる。

『ギャゥウウウウウッ!!』

『────』

 カッと今まで消えていた目の光が点く。
 そしてレンズの中で、物凄い勢いで数字の羅列が並んでは消えてを繰り返す。

 問題が無ければ、そのまま起動する……しかし、俺の修繕にどこか不備があれば、再び光は消える──あるいは、ハッキングを疑われてこの地を更地にされるかだ。

 修繕は完璧のはずだ、しかしもしもの可能性には備えなければならない。
 だからこそ、アイスプルの中でも無人の地にてこの起動は行われている。

 しばらくして、数字の羅列が途絶えた。
 そして──光が灯ったまま、ゆっくりと虎型の願望機が起き上がる。

≪目標:Typeドラゴンを確認──デストロイを起動します≫

 ……あっ、これ失敗したな。
 突然聞こえたアナウンス、そして内部の駆動音が唸り声のように轟きだした願望機を見てそう思うのだった。


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