虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

VSチャイナ娘 その09



 お互いに構えを取り──全力を注いだ攻撃に移行する。
 新たな能力“シークラーン”によって、ナヨは自らの動きをこれまでを凌駕していた。

「はぁああああ!」

「くっ、これは……!」

「これが新しい力! ただ学ぶだけじゃなくて、体得するための力!」

「! 勢いが……!」

 これまではすべてを捌き切っていたアンノウン(ツクル)だが、ここに来てだんだんと攻撃を受けるようになっている。

 それは純粋に、ナヨの攻撃速度が速まっていることを意味していた。
 受け流そうとする腕を弾き、隙を生み出すと──強烈な一撃を胸に叩き込む。

「がはっ……!」

「これで、どう!?」

 ボテボテと地面を転がるアンノウン。
 しばらく倒れ込んでいたが、それでもゆっくり時間を掛けて起き上がってくる。

「これはこれは……してやられましたね。観客たちも、完全に貴方の味方のようで」

「……それがどうしたの?」

「おや、お忘れですか? 試合中も、行動の成功率を上げるルールにいていたのを。行動の成功、それはあらゆるものが適応されているのですよ」

「! ……そうだったの」

 チラリと後ろを確認、祖父であるジーヂーもその通りだと頷いていた。

「じゃあ、この力もお膳立て?」

「どのような力であろうと、そこに私は関与できません。それは貴方自身の想いの発露、唯一無二の意志の証明なのですから」

「……何者なの?」

「さぁ、何者なんでしょうね? その答えについては、ご自身でお考えください」

 改めて構えを取るアンノウンに、ナヨもまた構えを。
 お互いに地面を蹴りだし、鍛え上げた武を競い合うのだった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 ──Winner:アンノウン!

 周囲から聞こえてくるブーイングが、文字通り俺を死に目に晒してくる。
 まあ、何度殺しても蘇り、人間サンドバック(迎撃機能付き)みたいになってたし。

 最後は相打ち……みたいな流れでちゃっかり生き残った俺を、観客は許さない。
 舞台の外に転送されたチャイナ服少女──ナヨは、現在祖父であるジーヂーと居る。

「……まさか、『バトルラーニング』の持ち主と会えるなんてな。新能力を狙ってやってみたけど、成功したようで何より」

 今回、ナヨが目覚めた“シークラーン”。
 どうやら、自身の理想とする動きを最適化するため、『プログレス』が補助に入るという能力らしい。

 要は『SEBAS』が普段やっている、俺の補助の逆みたいなものだ。
 アレは結界で俺の体を強引に動かし、本来の使い手の動きをそのままやっている。

 だが、そんなことをすれば当然体への負担は甚大なもの。
 ナヨの場合、それを自分の体に合わせてやる場合の理想が分かるようになるのだ。

 武人的には、欲しくなること間違いなしな能力である。
 実際、ジーヂーが孫娘に詳しく能力について聞こうとし……あっ、そっぽを向かれた。

「まっ、一番の目的だった経験値稼ぎも成功したし。お礼はしないとな」

 今回得た経験(値)、そして大金。
 俺が主催者だったので、一部が還元されているのだ。

 二人はたぶん、そこまで金にはこだわっていないだろう。
 しかしまあ、俺の方も使い道に困るし……おすそ分けということで。


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