虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

VSチャイナ娘 その01



 攻撃を回避したアンノウン(ツクル)は、“千変宝珠・弾”によって反撃に出る。
 弾丸一発一発が高密度の魔力で構成され、それなりにダメージを受けてしまう。

 攻撃を放った直後で、反撃をいっさい受けずに対処するのは困難だった。

「──“回避”!」

 しかし、システム的アシストによってそれは行われる。
 次々と弾丸を避けると、ある程度整った体勢から地面を蹴りつけて後方へ。

 被弾数はゼロ。
 互いに表示されるHPバーに変化は無かった……が、

「──いやー、とてもお強い。さすがは彼の御仁のお孫様で在らせられる」

「……ハァ、ハァ……」

「皆さんも、この可憐な少女に盛大な拍手をお願いします……おやおや、ブーイングは私めにでしょうか。お気持ちだけ、受け取っておきますよ」

 息一つ漏らさず、余裕気な態度を観客に振る舞う姿は人々を苛立たせる。
 しかし、相対する少女、そしてごく一部の者だが気づく──これは異常だと。

 武人のように隙が無いわけでも、特殊なスキルを発動しているようにも見えない。
 レベルも低く・・、ただ現実にも居そうな服を着る成人済み男性。

 ある程度経験を積んだものならば分かる、シミュレーション染みた勘。
 それらがいっさい当たらず、ただ余裕綽々な男が在る現実を受け入れられないでいた。

「……もう、何なの!」

「おや、いかがなさいましたか?」

「どうしてそんなに弱そうなのに、無傷でいられるの!?」

「……おやおや、これはまた。ですがまあ、お手伝いしてもらっている身。こちらも、ある程度はご質問にお答えするべきなのかもしれませんね」

 アンノウンが何かを呟くと、彼の中で何かが変わった。
 それが何なのか分からなかったナヨ、しかし鑑定スキルを行使すると──

「レベル……測定不能?」

「今の方々には、そうして視られるわけですか。いやはや、お恥ずかしい……若気の至りというヤツでしょうか、一時期レベリングに勤しんだ時期がございまして。これまでは、ある方法でそれを隠していました」

 何か圧が強まったわけでもない。
 しかし、レベル測定不能とはつまり……相応にさまざまな経験を積み、スキルを持っているとナヨは判断──

「一度としてスキルは用いていませんよ」

「!?」

「ああいえ、心を読んだわけではありませんのでご安心を。ただ、一つ誤解があると困りますので」

「……誤解?」

 そろそろいいでしょうか、と独り言のように呟いた後──アンノウンは語る。 

「私はこれまで、初期設定を除いてスキルはポイントを経由して獲得したことがございませんよ。これからどのような挙動をしたとしても、それはスキルによるものでは無い。そのことを、胸に刻んでください」

「どうして、そんなことを……」

「さて、どうしてでしょう。それより、息も充分に整ったようで。では、二回戦を始めることにしましょう」

「! ……舐めないで!」

 挑発だと分かっていても、なお体は前へと進み出ていた。
 アンノウンはただ、地面を強く踏みつけると──不思議な挙動の後、再び地面を蹴る。

「──“地裂脚”」


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