虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

異神話対戦 その09



 ヒュドラの毒が、今なお体を蝕む。
 傍から見れば、ただ『生者』の権能でしぶとく生き残っているだけに見えるだろう。

 しかし、その裏では二つの術式が暗躍している。
 それこそが、普段の俺では想像できないほどの戦い方を可能にするのだ。

《──旦那様、準備が整いました》

「分かりました──『インストール:ステータスコンバート』」

「ほぅ……それで何をする──っ!」

「『技巧DexTo攻撃力へAtk』」

 俺の持つ能力値の内、唯一突出している器用さを変換。
 ヘラクレスが驚くのも当然、見た目はともかく内包する力の量が一気に増えたのだ。

 なお、だいぶ前に使った“オールコンバート”と違い還元率は三割ほど。
 ──それでも充分以上に力を発揮できるのは、ひとえに“孤独蟲毒”のお陰だ。

「……それが、さっきの術の効果なのか」

「ええ。“孤独蟲毒”、死ねば死ぬほどその身が強化される……そういった類の術式ですよ。ただ、死ぬことが代償なためか、少しばかり性能は高いですがね」

 本来ならば、わざわざ三割というピンハネなんて無くとも良かったのだが……。
 残念ながら俺の能力値は1、それも限りなく0に近い1なのだ。

 なので唯一まともな器用さを変換し、加算することで強化を図っている。
 そして、その有り余る攻撃力を活かして行うのは──[称号:『豪腕無双』]だ。

「──“物理威力増幅・極”」

 それは初期も初期、アイスプル開拓時代に得た称号の産物。
 ついに日の目を見たそれを、能動的に使いながら……ゆっくりとヒュドラへ近づく。

『…………』

「…………」

 シーンと静まる場は、俺が何をするのかという期待に溢れている。
 それに応えるためにも、力を示す必要があるわけで──ヒュドラが迎撃に動く。

 捨て身覚悟なのか、首を一本向かわせて丸呑みしようとしている。
 だが俺はそれを意にも介さず、ただ腕をグルグルと回転するだけ。

「ワーン、パーンチ!」

『──ッ!!』

 どこかのヒーローみたいに、大きく振りかぶっての拳撃。
 速度も無く、ヒョロヒョロと拳は突っ込んできたヒュドラに当たり──吹き飛ばす。

『おっ、おぉおおおおおおおおおお!!』

「……やるじゃねえか」

 何度死んだか分からない、そう思えるほどの死が俺を極限まで強化した。
 その三割を注ぎ込んだ結果、ヒュドラは手が当たっただけで肉体が破裂する。

 尻尾から先が棍棒の柄の部分だったため、その衝撃はヘラクレスにも届いたはずだ。
 しかし、彼は腕を上げただけでその衝撃をすべていなした。

 ……なんとも恐ろしいもんだ。
 いったい何度死ねば、互角と呼べるほどの能力値が得られるのかさっぱりである。


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