虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

異神話対戦 その07



 半神半人の英雄ヘラクレス。
 神々が与えた無理難題、十二の試練を超えた最強の英雄神。

 語るのであれば相当長くなるので止めておくが、とにもかくにも強い。
 そんな彼と、なぜか俺は試合をすることになっていた。

「ハハハッ! ほれほれどうした、攻撃をしてこい攻撃を!」

 正確に俺を殺し得る軌道で、棍棒を振り回してくるヘラクレス。
 その一つ一つに死の気配を感じながら、そのスレスレを避けていく。

「はー、全然当たんないな。『生者』は生きしぶといって噂は本当だったのか」

「……そいつはどうも」

 現在、体の主導権を『SEBAS』に委ねて防御や回避に専念している俺。
 いかに豪傑無双なヘラクレスとて、武術だけで言えば解析した情報の方が上だ。

 武人だけでなく、武神の協力(強引)も得て作られた戦闘プログラム。
 使用者の肉体さえ鑑みなければ、誰もが最強の武威を示すことができる。

 ──がしかし、あくまでも自分の肉体で対処できる限界の範囲で、という注釈が付いてしまうがな。

「攻撃してこないか? なら、こっちからやらせてもらうぞ──『■■』!」

「っ……地面が!」

 俺の聴覚では認識できない謎の言語。
 それを叫んだヘラクレスが、勢いよく地面に棍棒を叩きつけた。

 さながら、『闘仙』の放つ“地裂脚”のように地面は大きく砕け散る。
 違いがあるとすれば、彼を中心に大きく半円型の窪みが出来たことだろう。

 その間俺は揺れに翻弄され、身動きが取れないでいた。
 すぐに『SEBAS』が結界の再調整を行うものの、同じ手は使わないだろう。

「先ほど呟いた言葉はいったい……」

「ん? ああ、『■■』か。なんて言ったらいいかな……まあ、神の言葉で権能みたいな意味だな。俺の場合、生前にやったことから連想できる力を宿せるぞ」

「……そこまで教えてくださるのは、何故でしょうか」

「こっちは最初から、『生者』ってのがどういうヤツか知ってたもんな。だから、その詫びみたいなもんだ」

 竹を割ったような性格だな、ヘラクレス。
 物凄く良い人なんだが……神話に語られる凶暴性は無いのだろうか。

 いや、無い方がいいけどな。
 少なくとも目の前に居るヘラクレスは、神として奉り上げられた存在なので、生前とは少し違っていたりするのかもしれない。

「それより、ネタバラシはしたんだ。もう少し派手にやらせてもらうぞ──『■■』!」

「今度は……棍棒が蛇に!?」

「お前さんなら耐えられる! だから俺に見せてくれ、お前さんなりの乗り越え方を!」

 よく分からないが、ヘラクレスの試練をやらされそうな気がする。
 ……トライ&エラーはできるけど、正攻法からやったら多分終わらないぞ、これ。


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