虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

WITH仙王 その20



 不屈のニートこと【仙王】は敗れ、それなりの時間お説教を受けることになった。
 まあ、ある意味仕事をやらない時間が貰えたのだ……それで我慢してもらいたい。

「さて、改めて礼を言おう。迷宮の件、そして……ワンの件もな」

「いえ、前者はともかく、後者はほとんど趣味へ走っていましたので。あのときの映像は後日、家族で楽しむこととします」

「……理由はともあれ、王も力を付けた。やがては、『超越者』に至る可能性も……無くなっていたのだったか」

「ああ、そちらですか。『プログレス』を利用している間は『超越者』に目覚めることはありませんが、適切な処置をすれば資格自体は取り戻すことができますよ」

 あくまでも、『プログレス』は権能を行使する枠を間借りしているだけだし。
 そこを綺麗さっぱり空にすれば、有資格者ならば自ずと『超越者』となるだろう。

 しかし、『闘仙』は何やら重い顔だ。
 ……次に語った発言で、その意味はすぐに理解できるのだが。

「──王が、手放すと思うか?」

「あー、無理そうですね」

「経験上、『超越者』とはあくまでも職業や行動の延長線上でしかない。特異なものもあるにはあるが、王の欲するような権能では無いだろう。ゆえに、不可能に近い」

 職業が『超越者』化するケースは、極めて珍しい。
 長い間、誰もその座を奪えないほどに、座に就き続けなければならないからだ。

 そういった意味では、初代【仙王】はある意味惜しかったかもしれない。
 死してなお【仙王】に就いていれば、可能性はあっただろう。

 だが、一部の職業を除いて死ねば結びつきが失われて離職──つまり職業は消える。
 そして新たな適性者の下へ、就くための条件が提示されるだろう。

「ところで、『闘仙』さんの権能はたしか、代々武で仙術を示していた人々の証、ということでしたよね? それ以外、『超越者』に成り得るものは無いのですか?」

「……どうだろうな。仙術には元より、肉体の強度を高める術などはある。だが、仙人のあるべき姿に肉体のみで戦うという形が無いからこそ、『闘仙』が生まれたのだろう。純粋な仙人の姿で、目指すのは困難なはずだ」

「文字通り、何らかの形で超越した者にならない限り、道は開けないというわけですか。『王』を冠する権能たちは、それを実際に満たしている。末恐ろしいものです」

 それが当代の発現者かは別にしても、人がシステムを超えたことの証が『超越者』だ。
 可能性はゼロではない、冒険世界だからこそのシステムなんだろうな。


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