虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
幽源の世逃げ その05
地下も地下、城の最奥に位置する場所。
幽閉され、収容された犯罪者たちの中に俺たちの探す人物が居る。
「──これよ」
「あれから箱が開封される、といったことは無かったみたいですね。中がどうなっているのかは私にも分かりませんでしたので、最悪の状況も予測はしていましたが……」
幽人族も幽魔族も、究極的に言えば食事はほとんど要らないということは知っていた。
絶対に食事が不要というわけではなく、最低限活動に必要なエネルギーがあればいい。
なので生存しているとは思ってはいたが、もしもの可能性もあった。
収容前に極限の飢餓状態になっていたら、収容期間中に死んでいたかもしれないしな。
そんなことを考えていると、兵士が檻に掛けられた鍵を開く。
……本人はそもそも箱から出れないが、箱自体を奪いに来るヤツへの対策だな。
「どうぞ、王よ」
「ええ……『生者』、お願い」
「分かりました。それでは皆さん、少し離れてください」
開いた際に何が起こるのか分からないということで、開錠は俺が行う。
手に持つのは『生解の開鍵』、向かう先には『死天』謹製の『蔽塞の小箱』。
ゆっくりと近づけると、鍵からほのかな光が生み出されて箱に吸い込まれていく。
やがて、箱がルービックキューブのようにシャッフルされ──中から立方体が現れる。
「これは?」
「なるほど。どうやらこれまでの箱から、隔離するために更なる箱が構築される仕組みのようです。アレに触れることで、晴れて内部から解放されるようになるようです……それでは【幽王】様、よろしいですか?」
「さっき覚悟は決めたもの。やって」
「では、仰せの通りに」
光り輝くキューブに触れた途端、突如鳴り響く死への警鐘。
その音に身を委ねれば、認識できない速度で吹き飛ばされて壁に打ち付けられる。
急な出来事に驚く兵士たち。
だが、【幽王】だけはまったく動揺せず、それらを引き起こした張本人と対面する。
「──ったく、忌々しい野郎だ。殺しても死なないなんてふざけてやがる。久しぶりだ、この空気も……【幽王】もな」
「ゴロム……」
初めて知った男の名前。
そんなどうでもいいことを思っている間にも、話は続いていく。
「それで、わざわざここに来て、俺を解放した理由はなんだよ。やっぱり【幽王】様のやり方はダメだったんですか?」
「……外を見なさい。もう、幽魔が人族を恨むだけの時代は終わったの」
「ハッ、よく言うぜ。あれからどれだけ時間が経ったのか……だが、これだけは分かる。恨みってのは、絶対に無くならない」
至極真っ当なことを言うゴロム。
さて、【幽王】はどう答えるのか。
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