虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル後篇 その25



 何というか、すべてが異常としか捉えられない戦いだった。
 相対した二人は、間違いなく各世界の強者だ……それでも、あそこまで差があるとは。

「『騎士王』って、相変わらず凄いな……どれだけ模倣しても、全然追いつかないや」

《…………》

「こればかりは『SEBAS』の問題じゃないだろう。ちなみにだが、どうにかスペックだけでも対等にするならどうすればいい?」

《……特典、あるいは最上位職以上の力が必要でしょう。旦那様の【救星者】も、上位職までのすべてをカンストさせれば、小数点以下の可能性がといったところです》

 この場合、『SEBAS』の言うカンストとは、レベルだけでなくすべてのオプションまで解放することだ。

 俺の就いている【救星者】は、ありとあらゆる職業に理論上は就くことができる。
 ……ただし俺の能力値が低すぎるため、大半の職業には就くことができない。

 あの手この手で頑張った結果、生産職と零次、一次職すべてはどうにか開放した。
 だがそれは『開放』、あくまで就けるようにしただけだからな。

「たしか、解放できているのはそこまで多くなかったっけ?」

《完全解放が行えているのは、【試験職】のみです》

「そうそう……って、マジか」

 本来、いっさい成長しないというハズレ職であり、そもそも一般の休人が就くことを想定していない特殊な職業──【試験職】。

 レベルは1固定だが、経験値自体は獲得できるので……【救星者】の“職業強化”により更なる強化が可能だった。

「ちなみに確認するが、他の職業も全部完全に解放出来たら、どれくらい強くなる?」

《──現状観測している『騎士王』の全力であれば、やり合える程度には》

「その根拠は?」

《職業スキルの効果は、下級でも効果や規模が低めに設定されているだけで、役立つモノが多いです。それらを“職業強化”によって通常以上の性能で運用すれば、システム的な攻撃はほとんどが対処可能です》

 含みのある言い方ではあるが、真っ当な相手なら勝てると言ってくれている。
 観測されている限りでは、『騎士王』も振る舞いはシステム補正の範疇らしいからな。

「……いずれは、もっと強くならんとな。まだまだ開放できていない職業が多いし、初期のやり方で増やせるものもあるだろう」

《あれから情報収集を続け、いくつか可能な方法をピックアップしてあります。そしてその一つは、この闘技場にございます》

「ポイント交換の景品か? ここ限定の職業なら、少し気になるな」

 幻想世界──イベント世界の限定職業というのは、まだ調べていなかった。
 そもそも、俺のレベル999特典である拡張情報による鑑定は、冒険世界限定だし。

 エキシビションマッチも終わったし、やることも無くなった。
 ……そう思えている内に、やりたいことはやっておかないとな。


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