虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル後篇 その24



 はっきり言おう──理不尽だ。

 先ほどまで【冒険勇者】を相手に、激しい闘いを繰り広げていた『真海の主』。
 その光景は、観客たちにその強さと恐ろしさを知らしめたことだろう。

 だが、視界に映る闘いだけを見れば、捉え方は大きく違っていたはずだ。
 まるで子供と大人の戦い、抗いは文字通りの児戯であったと。

「どれだけ海を生み出しても、手を振るうだけで全部消滅って……異常だな。しかも聖剣とか、そういう武器も無しっておい」

《ルーン文字、そして魔術などを用いているようですね。また、他にもいくつかの魔力運用技術を同時に併用し、『真海の主』に優る魔力干渉を行っているのでしょう》

 相手が魔法使いだから、同じように魔力を操って倒す……ずいぶんな舐めプなのだが、それを許されるだけの実力を持つのが、冒険世界最高の実力者『騎士王』だ。

 万能の才を持ち、それらすべてを達人の域まで昇華させるだけの才覚と努力。
 何一つ取り零さず、人々の理想を体現した存在……それが彼の者の権能でもある。

「それにしたって、あれだけの魔法を一瞬で消すとはな……凄いな」

《『騎士王』は術式を把握し、最小の魔力で霧散させているようですね。解呪しているわけではなく、あくまで術の完成形を消失に書き換えている。そのようにすることで、示しているようです》

「……自分、引いては冒険世界の魔力技術も捨てたもんじゃないことをか?」

《旦那様の仰る通りかと》

 アイツなら、なんとなくそういうことを考えるんじゃないかと思った。
 間違いなく目の前ですぐに消される魔法の術式は、常人じゃ解読不可能な代物。

 そりゃそうだろう、相手は魔法世界における『超越者』。
 使う術式も相応のモノ、だからこそ目の前の光景は異常である。

「干渉から消失をするだけで、介入して暴走させない辺り、何かを狙っているのか?」

《手の内をすべて明かさせ、そのうえで圧倒するという宣言ですね。成功すれば、その異名はさらに轟くでしょう》

「……失敗する可能性の方が低いな、それ。そうして今、あんな感じなわけだし」

 高度に隠蔽されていようと、お構いなしに術式に介入する『騎士王』。
 その高度な技術は間違いなく、魔法世界でもめったに見ることなどできないだろう。

「おっと、本気を出してきたか?」

《『魔海』を生み出し、『深海』の圧と共に侵蝕を行う……常人が相手であれば、最適であったかもしれません》

「けど、相手は『騎士王』だしな……まだ遠いよ」

 その手には小さな木の枝の杖。
 それを水圧なんて無いもののように、あっさりと振るうと──すべての魔法が消失。

 起きた現象に心が折れたのか、ついに降参する『真海の主』。
 こうしてエキシビションマッチは、冒険世界の『騎士王』が勝利するのだった。


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