虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル後篇 その18



 ──『孤軍刃籠[シャロウ]』。

 かつて、家族が一丸となって挑んだ、アイスプルの迷宮に出現したユニーク種の特典。
 主に前衛で大活躍したショウがMVPとして選ばれ、その特典を与えられた。

「生前も大量の狼で包囲網を敷いていたが、ショウ用にアジャストされたから剣が展開されるようになったわけだな」

《現状では、坊ちゃんが手にしている星鉱剣が展開されておりますが、設定することで異なる剣を配置することが可能です》

「……無限に剣が製造されるとか、もしかしたらショウのイメージが強く反映されたのかもしれないな」

《事実、“刀影”といった能力がございますので、二本まで魔力と影を介して一時的に生み出すことができますよ》

 ……ショウよ、やはりお前はどこかの物語の主人公なのかもな。
 二本までなのは双剣用かな、と思いながら舞台を眺める。

「狼の剣と虎の剣+α。さて、強いのはどっちだろうな」

 舞台を覆う剣と『覇獸』を囲う剣が、同時に動き出す。
 それぞれが敵となる対戦相手に向けられるのだが、ここで対応に差が出る。

 まず、周囲に展開している分『覇獸』の方が剣を上手く使っていた。
 加えて制御の練習もしていたのだろう、本人は移動するだけで物理的な対処はしない。

 対してショウは、自身ではなく舞台を覆っているため剣の到着が遅い。
 防御よりも攻撃に剣を使い、自身に向けられた物に関しては物理的に排除している。

 その差はそれなりにデカい。
 アイテムを媒介にしている分、ショウの方が消耗は軽い……が、本人が防御をしている分だけ『覇獸』よりも疲労が見える。

 もちろん、『覇獸』も権能をフルで発動しているため、疲れていないわけではない。
 それでも、効率の良い闘い方で体力を温存しているように見えるとのこと。

《何より、坊ちゃんの発動する能力には明確な制限時間がございます。それが終われば、再び劣勢に追い込まれるでしょう》

「……なるほど、だからこそのアレか」

 ショウの『プログレス』は、能力値で劣る場合に自己強化が施される。
 おそらく、そのすべてが強化されてショウも驚いたことだろう。

 そして、だからこそ発動されるのは命を懸けた最大強化──“オーバーブレイブ”。
 全能力値がさらに十倍となり、舞台の上で見せる動きにも明確な変化が起きる。

「──けどまあ、『覇獸』の方がそれでも上だよな」

《『超越者』としての権能を用いるため、多くの存在と長年相手をしていたのでしょう。坊ちゃんがいかに冒険をしてきていても、その差は覆しようがありません》

「となると、まだ足りないよな……ここからどう逆転するのか、楽しみだよな」

 成長した『プログレス』による、一発逆転こそがカギだ。
 俺とて、過信しているわけじゃない……頑張れよ、ショウ。


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