虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル後篇 その02



 俺が生みだす幻想の獣、アカが呼びだす機械の兵士たち。
 それらは舞台の中央でぶつかり──獣の圧勝で終わる。

「っ……!?」

「どうやら、こちらの方が高い性能を誇っているようですね」

 そもそも、星のエネルギーを秘めた獣に量産型の機械が勝つ方が難しい。
 決勝戦なので、『統天』やその他の称号も機能させてあるからな。

 勢いよく突進する獣に対し、アカは脚に魔力を籠めての跳躍を行う。

 錬金術の産物らしく、アカは宙に浮遊してなかなか戻って来ない。
 ゆっくりと落ちているようだが、その間に手袋に魔力を籠めた。

「展開──“鍛造錬金・剣”」

 パッと広げた手から、無数の魔法陣が宙に投影される。
 現れるのは柄から切っ先まですべてが赤い剣、それらが一気に獣を襲う。

「お見事です」

「次は貴方です」

「いいえ、遠慮しますよ──“星変万還”」

 射出された剣が獣を屠ると、次に向けられるのは当然俺。
 なので玉型のアイテムを起動し、魔力を籠めて自身のイメージを伝える。

 すると玉は傘のような形になり、降り注ぐ剣の雨を防ぐ。
 硬質は当然俺の経験に基づくが、そこはすでに多くに触れたイメージを反映済みだ。

 ただの傘ならばあっさり貫かれる惨状も、そのイメージ通りならば問題ない。
 やがて雨が収まる時、傘を閉じた俺に傷はいっさい無かった。

「どうしてあの結界を使わなかった?」

「消費が激しいですし……何より、アレで充分だったではありませんか」

「そうだな──“調合錬金・毒霧”」

「ならば、“神持祈祷:グランドマロット”──“極小風ミニマムウィンド”」

 今度は手袋で生み出した魔法陣から、紫色の煙が吐き出される。
 俺は女神に祈り、道化師の杖を召喚──微風を吹かし、嵐を生み出す。

 結果、煙はどこかへ霧散していく。
 その勢いのままアカも襲いたかったが、ひらりと宙を蹴って躱されてしまう。

「それにしても、不思議な術ですね……既存の魔法理論とはまったく異なる、生産系の陣による攻撃ですか」

「そうだ、これが生産世界が生みだした新たな闘い方。これにはすべての職人の想いが乗せられている……勝てると思わない方がいいだろう」

「たとえそれだけの想いがあろうと、負けるときは負けますよ。それを証明するのが、私の役目ということですね」

 杖を消し、再び祈りを捧げる。
 このモーションは何度もやっているので、阻止しようと再び剣を飛ばしてきた。

「させない!」

《代行──“星護結界”》

「今度は使ってきたか……」

「──“神持祈祷:アビリタプランナー”」

 攻撃を『SEBAS』に防いでもらい、起動したのは禍々しい籠手を生み出す能力。
 ただし、これは俺の想像し得る中でもかなり扱いづらい『プログレス』とも言える。

「それでは、いただきましょうか」

「やはりそれも使えるか──『プログレス』の中でも最悪の能力」

「ご安心を。私の物は初期型、そのうえこの舞台での結果はリセットされますので」

 アカは[掲示板]でも見ているのかもしれないな、これの持ち主は生産世界の出身者では無いので。

 最悪の『プログレス』──すなわち、簒奪の『プログレス』。
 少なくとも、休人たちの中ではそう噂される能力である。


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