虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
多世界バトル中篇 その06
そんなわけでまずは一回戦。
相対するのは、休人の……おそらく錬金術師と思われる。
≪赤コーナー、冒険世界より……隠す気があるのか? 舞台へ自力で向かう独特のスタイルは未だ健在。しかし、あえて知らぬふりをしましょう。彼の名前は──ゴンベエ!≫
名無しから取った偽名だが、なんとも台無しな紹介だ。
まあ、俺も隠す気が無いからこそ、あえてそのまま行っているんだが。
俺が近接戦闘も可能だと知っていれば、取れなくなる手もあるだろう。
欺瞞情報を混ぜることも、立派な戦術の一種である。
≪青コーナー、こちらも冒険世界より参戦。薬も毒も何でもござれ。果たして、その産物は不死身の男に敗北を味合わせることができるのか──クスクスリ!≫
……本当に隠す気が無いな、と思いつつ改めて相手を調べた。
本人自体の脅威度は低いが、隠し持っている品々への死亡レーダーの反応が強い。
錬金術の利点は、他の生産に比べて完成するまでの時間が速いこと。
効率化・短縮化を求め、石すら黄金に変える技術だからな。
まあ、そんなわけで、間違いなく持っているであろう複数の薬物と毒物。
そして、未知数の『プログレス』……実に厄介である。
「──貴方とは話をしたかった」
「おや、どうしてでしょうか?」
「なぜアレを使えた。アレは私だけの力、そうでなくてはならない……そうだ、あってはならないのだ……」
「…………話を詰めるのは、この戦いの中でにしましょう。言葉の闘争は不要、勝者こそが正しいのですから」
なんとなく察しは付いたが、だからと言って俺にできることは何もない。
せめてもの対応は、求める行動を取ってやることだな。
≪それでは、試合開始!≫
「──“ベストペスト”!」
「──“神持祈祷:ベストペストII”」
◆ □ ◆ □ ◆
俺と錬金術師が展開した、細菌生成能力。
残念なことに、この時点で俺は生みだされた細菌に殺された……しかし、その体は半分だけ生き残り今なおこの場に留まった。
生き残ったことに、錬金術師も驚きはしない……しかし、それ以上に錯乱している。
「やはり、やはりか! ダメだ、それはいけない! 禁忌の力、忌むべき能力! 持っていてはいけない『プログレス』だ!」
「間違いなかったようですね。まあ、貴方はの主張は理解します。なるほど、たしかに危険だ……ですがそれと同じ以上に、人々を救い得る力でもあるじゃないですか」
「いいやいけない! 救いになる? いいや甘い、人はそれほど善意に満ち溢れてはいないのだから! 貴方のように、そのような力の使い方をされることなど……決してありえてはいけないのだ!」
そう、『ベストペスト』はこの錬金術師が唯一の創造者である能力なのだ。
そして錬金術師自身がそういう思想の持ち主だから、問題には発展していなかった。
──だがそこに、祈るだけでありとあらゆる『プログレス』の能力を引き出すという、者と術が現れてしまう。
「だからこそ、終わらせなければならないのだろう──“ウルスウィルス”!」
そう言って叫びと共に放たれるのは、見えざるナニカ──それが俺の周囲に到達した途端……全身が食い千切られた。
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