虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル前篇 その27



 始まった上空での決戦。
 とはいえ、そう長いものではない……それゆえに、迅速に事を済ませる。

「──“神持祈祷:タブースペルズ”」

「なんじゃ、その巻物は!」

「すぐに分かります──“スペルドロー”」

 冷静に、心を鎮めて能力を発動。
 魔法を一日一回、引くことができる能力。
 成長後は魔力消費で追加もできるが、完全な初期状態ではそれが精いっぱい。

 最初なのにラストチャンス。
 残念ながら運の悪い俺ではあるが、間違いなく彼女は俺の活躍を祈ってくれている。

 神は俺に微笑んではくれないが、彼女という女神は俺の味方だ。
 だからだろうか……今までに見たことの無い演出でスクロールが出現した。

「黄金の……巻物じゃと」

「これは……女神様は素晴らしいですね」

「貴殿、それはいったい……」

「すぐに分かりますよ──『虚無イネイン』」

 虚空魔法“虚無”。
 スクロールに記されていたのは、たったそれだけ……だからこそ、この魔法が勝利をもたらしてくれると確信した。

 俺の持つ魔力をすべて奪い、ギリギリ発動できたのは小さな光。
 豆電球ほどしか輝かないソレは、ゆっくりと明滅を始め──辺り一帯を削り喰らう。

「なんというものをぉおお!」

「ははっ、共に終わりましょう!」

 俺と翁の間で発生したソレは、さながらブラックホールのようにすべてを呑み込む。
 だがそこに、ホワイトホールなど存在しない──あるのは永劫の虚無だ。

 もちろん、休人が呑み込まれても自動的に死に戻りで脱出できるだろう。
 だが、翁は察しているはず……間違いなく判定差で負けてしまうことを。

 虚無に呑み込まれるのは、俺たちだけではなく舞台だった地面なども含まれる。
 それらの消滅から、おおよそ活動できる時間は分かる──ゆえに翁は動く。

「うぐぐ、ならばその前に貴殿を──」

「無理ですよ──“神持祈祷:インビジブルクローク”」

「外套……それで回避ができるとでも!?」

「普通なら無理ですが、ここはファンタジーなゲームの中ですので。お年寄り優先ということで、先に行っていていただけると」

 攻撃を仕掛けるため、宙を蹴って俺の下へ近づいてくる。
 虚無に呑み込まれる現状は変わらないが、踏み止まる分相対的に距離が近づく。

 触れたが最後、もう一度再生不可の攻撃で俺は死ぬだろう。
 しかし、確信している……この瞬間だけ、俺はすべてを計画通りに実行できると。

「外套にはある能力がありましてね。名前の通り、纏った者を隠蔽状態にします」

「それがどうし──」

「そして、私の加護にはこんなものがありましてね。一定の確率で、通常の隠蔽以上に隠れることができるというものですよ」

「……まさか」

 翁の拳が到達した瞬間、それは起きる。
 まるでホログラムのように──拳は真っすぐに俺の顔を通過した。


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