虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル前篇 その22

連続更新です(04/06)
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≪赤コーナー、冒険世界より参戦。ついにここまでやって来た。びっくり箱は最後に、私たちに何を見せてくれるのか。まさに不死身のアンノウン!≫

 何がまさになんだろう、そんなツッコミは大歓声によって打ち消される。
 もうここまでくれば、ブーイングも消えるようだ……一部の人は儲かったろうしな。

 番狂わせを何度も起こし、賭けていた者ならがっぽりのはず。
 事実、[掲示板]でもそういった内容は掲載されていた……まあ、別にいいけどさ。

「ともあれ、お陰で声に関するアイテムに困ることはありませんね」

 なんてことを呟きながら、眼前に意識を向ける。
 飄々とした武骨なお爺さん、みたいな捉え方でいいのだろうか?

≪青コーナー、武闘世界より参戦。極められたその武は、まさに武の仙人が如し。止められるものなら止めて見せよ、武は決して裏切らず、約束された勝利を与えよう。そう、彼の者の名は──ジーヂー!≫

 転送によって、俺よりも速く舞台の上で待ち受けていたご老人。
 武人云々のことはよく分からないが、似ている雰囲気を知っていた。

 それは『闘仙』の放つ風格。
 鍛え上げた己が肉体を信じ、そこに絶対的な自信を持てている者だけのオーラだった。

「ふむ……やはり分からぬ」

「分からないとは? よろしければ、その問いを共に考えましょう」

「うむ。無論、貴殿の話じゃ。いかにここが『げぇむ』の中だとしても、あのようなことができるかとのぅ」

「……あのようなこと、とは?」

 話の流れ的に、何を言おうとしているのかはなんとなく分かった。

「──動かずに動く、静にして動。貴殿の振る舞いに似つかわぬ、超一流の武を見たぞ。なればこそ、気になるのじゃよ」

「なるほど、その問いに答えるのはとても簡単そうです。ですが、貴方はそれを必要としていないでしょう」

「うむ、戦えば分かること。貴殿が話の分かる男で良かったぞ」

「妻を、そして子供を持つ身。恥じぬ振る舞いを心掛けておりますので」

 互いにこうして会話をするのは、相手を見定めるため。
 そしてそれも、もう間もなく終わる……会話の終わりがそれを示していた。

「儂も子を……何より孫も居る。目に入れても痛くないほど可愛い子でのぉ、今度優勝の映像を見せてやるんじゃよ」

「それはそれは、申し訳ないことを……ですが、お孫さんも嬉しいでしょうね。自分の祖父が、なんせ準優勝するのですから」

「「…………ははっ!」」

 互いに煽り、後腐れを無くす。
 目的を果たすためには、もう片方を消すしかない──

≪それでは決勝戦──開始です!≫

 ──こうして、基礎縛り部門の決勝戦が始まるのだった。


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