虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

多世界バトル前篇 その11



 短剣の扱いもラーニングしてあるので、使うこと自体は別にできる。
 しかし、相手は鬼化を意味する能力を行使している……そう簡単に攻撃は通らない。

 ならばなぜ、短剣を取りだしたのか。
 特に意味なんてない、ただそっちの方が盛り上がると思ったからだ。

「せめて[モルメス]であれば、簡単にできたでしょうに……」

「いつまでもぶつぶつ言ってんじゃねぇ──“拳撃パンチ”!」

 オートで使えば、どんな姿勢からでも最適なパンチを放てるガキウの武技。
 だが必ずその場合、軌道がストレートになるという弱点を秘めている。

 なのでそれを利用して……といけばよかったのだが、その拳は軌道が曲がっていた。
 音声コマンドを入力したのだから、完全なマニュアルでは無いだろう。

 つまり半セルフ、必要最低限な補助だけをさせて攻撃は自分で行っている。
 完全セルフは、逆に難しいからな……身力の流動から全部やらないとダメだし。

「本当、苦労していますね」

「何言ってやが……というか、“回避”は使い切ったはずだろ!?」

「さて、何故でしょうね?」

「……チッ、リキャストを早めるスキルでもあるのか? くそっ、縛りさえなければすぐにでもぶっ殺してやるのに」

 いや、だからこっちに参加したんだよ。
 攻撃をただ避け続けているが、それはスキルをいっさい用いない素の回避。

 正確には、『バトルラーニング』の学習の成果だが……そろそろかな。

「では、こちらから……むっ、やはり皮膚が固いですね」

「ったりめぇだ! 俺様の防御力は、誰にも通させやしねぇ!」

「そうですか。では、試しましょう」

 攻撃を繰り返しているが、初心者用の小さな短剣では全然通らない。
 嘲笑を浮かべ、さらに“拳撃”を重ねてくる……が、俺もまた避け続ける。

「いい加減に死ねよ! もう無駄だって、理解してんだろうが!」

「…………」

「くそが……もういい、俺様が終わらせてやるよ──“脚撃キック”!」

「……隠していましたか」

 切り札にでもしたかったのだろう。
 出し渋っていたそれは、これまた半セルフで発動した脚での攻撃だった。

 しかし、『バトルラーニング』は経験したあらゆる戦闘データから行動を予測する。
 そもそも、相手がそのすべてを可能とした前提で戦闘を行っていた。

 短剣による攻撃をひたすら繰り返し、じわじわと皮膚に傷を付けていく。
 ダメージ判定は0、だが着実にそれは蓄積されていく。

 そして──

「……あ゛っ? なん、で……腕が?」

「関節、そして点欠。それらを封じさせていただきました。ご安心ください、すぐに終わらせますので」

「来るんじゃねぇ!」

「いえいえ、そう硬くならずに」

 短剣一本でも勝てるからこそ、最適な闘い方をしてくれていた『バトルラーニング』。
 攻撃力が無くとも、攻撃そのものは通るので……針治療みたいな物だ。

(まっ、『貧弱な武力』も『闘匠』も無しで戦うにしては、上出来な結果だよな)

 あれらが有れば、確実にダメージも入っていただろうが……あえて使わずに勝つことを選んだ。

 今は四肢を動けないように、全部の点欠を押しているところ。
 暴れてはいるが、そもそも通っていなかった攻撃……その手段も減っている。

 やがて動けなくなったガキウの、指を操作してリタイアを選択。
 こうして俺は無事、二回戦へと進出を果たすのだった。


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