虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

強者の宴 その09



 傍から見たその光景は、まさに異様なはずだろう。
 冠する通り、千本の手によってフルボッコにされる俺……そのすべてが命中している。

 当たれば当たるほど、俺の存在はどんどん削れていく。
 権能は当たりさえすれば、ダメージを届けることができるのだ。

 一発一発によって、生命力は底を尽く。
 瞬時に再構築……するはずが、その再構成の隙すら無く、次々と拳が降り注ぐ。

 千手に加え、武技の補正による追加攻撃。
 当たれば当たるほど、俺という存在の奥深くへと『一撃』が浸透する。

《本当、『SEBAS』のバックアップが無かったら死んでたかもな》

《そうなった場合、現実へ強制的に帰還していました。今回はそちらの判定を偽装し、旦那様の意識を隔離しました》

《前に『セバスチャン』を使った時と同じようなものだな。『一撃』には悪いが、ここまで『死天』のアイテムを量産してくれる人はそう居ないからな……ちゃんと最後までやり切ってもらおうか》

 俯瞰した状態で、自分自身の体が塵レベルで消滅していく光景を眺めている。
 アバター経由でログインしている休人だろうと、かなりヤバくなるだろう。

 それでも俺が無事なのは、あくまで用いていたのがエクリという器だったから。
 俺にのみ特化した器である代わりに、こういうときにも使える能力が組み込んである。

 その一つが、俺の魂をいかなる状態でも保護してくれるというもの。

 もともと特典由来の素材は、壊れても再構築される性質があった。
 その力を【生産勇者】が強化してくれた結果、ある条件を満たせば保護してくれる。

《エクリ、権能による攻撃は初めてのはずだが……大丈夫か?》 

《問題ありません。創者様の御業は、権能程度でこの身を砕けるようにはしておりませんので》

《そりゃあ頼もしい。うん、このまま経験を積ませてもらおう》

《畏まりました》

 今回の勝負を受けたのは、アイテム生成だけでなく、これが目的でもあった。
 エクリの性能は誰よりも信じていたので、今回それを実践で試している。

 ……まあ、そういった旨もいちおう伝えているぞ。
 自分の肉体は仮初で、勝敗はあくまで生き残るかでしか比べられないと。

《休人云々と勘違いしていたみたいだけど、まあそこら辺は些細な違いか》

 何度も言ったが、そもそも俺が勝つことが決まっていたようなもの。
 彼は今回、挑戦者だったのだ……『一撃』もきっと、何かを学んで満足だろう。

《……いちおう、お詫びの品とかは用意した方がいいかもな》

 保険は有っても困らない。
 そんなことを考える俺だった。


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