虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

友人の悩み 前篇



「……なあ、俺の話、聞いてくれるか?」

「──いや、どうでもいいからパス」

 なんだか非常に面倒な予感がしたので、そこははっきりと即答。
 しかし諦めたくないようで、迫って来る拓真を押し返す。

「ふざけんなよ、お前。俺がわざわざ時間を空けて、お前の息子ののろけ話を聞いたってのに……俺には何も無いのかよ!」

「俺が翔の話をするのは、布教と同じだから別にいいんだよ。けど、お前の話ってただのおっさんの愚痴だろ……それ、訊いていて相手に幸福感を与えられるのか?」

「翔君の話を聞いても、幸福には誰もなれないと思うぞ。特に男は絶対」

 失礼なことを言うこの男に説教をしたいところだが、事実であることもまた本当だ。
 それでも話を聞いてくれたわけだし……仕方がない、俺も少しは妥協してやるか。

「……十秒だけな。十──零」

「いや、一秒も経ってねぇぞ!? おまっ、ふざけんなよマジで!」

「……仕方ねぇな。はいはい、聞きますよ。どうぞご自由に」

「テメェ……はぁ、お前に今さら何を言っても無駄か。まあ、いいから聞いておけよ──『渡り船』に関する話でもあるからな」

 その単語にピクッと反応してしまう。
 俺と瑠璃、そして拓真がオンゲーで作っては所属していた集団の名称……『渡り船』と名付けたソレは、EHOには存在しない。

 しかしそれを復活させようとしている奴はいる……同じくかつてそこに所属し、味を占めているヤツだ(曲解)。

「で、その相談もジンリ関係か?」

「……まあな。アイツ、お前に何か言われてもこれっぽっちも止まらねぇな。むしろ、全力でアイツらをスカウトしてるぞ」

「……天の三人組か?」

 EHOは基本的に、プレイヤーである休人よりもそうではない原人の方が優れている。
 その最たる例は『騎士王』、アレに正攻法で勝てる奴っていないだろ。

 そんな休人だが、俺たちにしか与えられていないもの──それが『天』の称号。
 どうやったか知らんが、チート級の能力を組み込んだ称号を用意していたのだ。

 ……まあそこら辺はまた別の機会にするとして、今はそれを獲得した三人について。
 俺の家族、そして俺以外でその称号を得た三人こそ元『渡り船』のメンバーだった。

 どうやらすでに、彼らとは接触を済ませているようで……厄介な。

「いちおう言うが、ロームは俺を介してお前に情報を流してくれている。その辺はジンリも理解したうえで、使うことのメリットの方が大きいと判断しているみたいだな」

「アイツはな……でも、あのロープフェチが本当に役立つのか? 俺は『プログレス』もてっきりそういうロープっぽいものになると思ってたぐらいなんだがな」

「……いや、アイツはロープじゃなくて魔法使いの方が最初だからな。それに、アイツはそれほどバカじゃないだろ」

 そうは言われもな……なんてことを思いつつ、やはり面倒事だったと溜め息を吐く。
 そもそも、終わった話をいつまでも引っ張る時点でもうバカなんだよ。


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