虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭後篇 その01

 仕事が終わり、帰宅の途に着く最中。
 俺は飲み物を提供される代わりに、尋問を受けていた。

「──獣人の祭り、お前はそこにいるな?」

「……何のことやら」

「どこのどいつが、サンドバックで戦闘力測る店を出すんだよ。百歩譲ってそれがプレイヤーの仕業だとしても、間違いなくお前からそういう道具を買ったヤツだろ」

 毎度のことながら、俺が何かをするとそれに気づく拓真。
 さすがは情報屋、どんな些細な情報も見逃さないわけだ。

「……何を考えているかなんとなく分かるから言っておくが、お前の情報って高く売れるから目を付けているんだよ」

「…………」

「気持ち悪いから自分の体を抱き締めるな。その分、ちゃんと情報を売ってやってるんだからそれでいいだろ」

「……別にいいんだけどさ。それなら、俺にも売ったヤツの情報を教えてくれればもっと助かるんだけどな」

 残念ながら、そこら辺はしっかりとしているので基本的に教えてくれない。
 俺にそれ以上の情報があるとき、もしくは購入者が規則に違反したときぐらいだ。

「それで、俺が祭りに参加しているとどんなことになるんだ?」

「いや、やっぱり中央区の情報は売れるからな。許可を貰う攻略法とか、中に行くためのチャートとかがあれば買うぞ」

「……まあ、別に教えるのはいいけど。俺と同じ方法を取れる奴ってのも、全然いない気がするし」

 というわけで、俺がこれまでにやってきたことを説明する。
 縛りプレイだの無駄なことは省き、要点だけ纏めておいた。

「──とまあ、そんな感じだ。聖獣とも会いたいから、この後他の森獣にも接触するつもりだぞ」

「…………」

「ん? どうした、そんなアホが豆鉄砲に被弾したみたいな顔をして」

「いろいろツッコミたい……その意味の分からない言葉もそうだが、やってきたこともだぞ。どこのどいつが、【獣王】とタイマンで勝利するなんて条件を満たせんだよ」

 それはたしかに……ごもっともです。
 今回は縛りがあったが、実際の【獣王】は魔法だって使える。

 本人の気質的に使っていないだけで、ありとあらゆる戦闘を許容すれば使うだろう。
 加えて、そんな状況なら夫の『覇獸』から好きなだけ能力も借りるだろうしな。

「いろんなプログレスを使ってるお前だからできることだぞ。なんだよ、夢の世界に入るとか蜂蜜探しに特化した能力とか……そもそも、そういう能力が存在すること自体が初耳なんですけど」

「そりゃあ、人前で能力の自慢でもしないと伝わらんだろうよ。俺は一度起動した能力なら全部把握できるし、それは隠そうとしても分かる。こと『プログレス』に関する情報なら、俺に敵うヤツはいないと思うぞ」

「……売る気とか、ないか?」

「残念。外に漏れると、絶対に大規模な大事になる。それだけは避けたいんだよ」

 使えないからこそ、『超越者』も情報収集だけに留めている。
 ありとあらゆる『プログレス』の能力を知れば、覆す術があると分かるからな。

 ……そう、擬似的にではあるがそういうこともできる能力者は誕生している。
 ソイツの存在が露見しないことを祈り、隠匿し続けるしか無いのだ。


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