虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭中篇 その12



 千の刃を操り、剣虎に差し向ける俺。
 対する剣虎はそれを嘲笑うかのように、森の至る所を足場にして回避を行う。

『無駄じゃん、俺様はそう簡単には捕まらないじゃんよ!』

「それでも、勝つのは私ですよ」

 俺が増やしているのは彼の刃、だが剣虎がメインとして振るうのは口から伸びた犬歯が文字通りの『剣歯』となったもの。

 当然ながら、体から生えた刃よりもそちらの方が優れている。
 移動中に頭を振るって、近くの刃を切り裂いていった。

 千本という有利な数であっても、それが通じなければ意味がない。
 どうにか剣が当たらない部分に刃を当てようとするが……うん、全部捌かれているよ。

「なら、そろそろ動きますか。それではお覚悟を──[虚膨]星剣解放!」

『ッ!? マジかよ……』

「名は『虚心膨虐』、これに武人の動きを混ぜれば……本気となりますよ」

『へっ、なら掛かってこいや!』

 これ以上は何も言わずともいいだろう。
 今の[虚膨]は、『バトルラーニング』とリンクさせてあるので、すべての攻撃に最適な形状と硬度を勝手に調整してくれる。

 俺はただ何もしないでいるだけで、剣虎に勝つことができるわけだ。
 ……というわけで、さっさと死に続けて勝利を得ましょうか。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 ──結論から言えば勝利した。

 それなりに剣虎も粘ってはいたが、俺がこれまでに積んできた戦闘経験は異常だ。
 それらすべてを同時に相手取る、そんなイメージなので仕方がないのだけれど。

『それじゃあ、まずは『生者』だな、お前には許可、そして加護をくれてやるじゃん!』

「ありがときお言葉。必ずや、有益に使わせていただきます」

『俺様の加護は少し特殊だぞ。複数の剣を使う奴だけが恩恵にあやかれるんだ』

「……もう少し、詳しく」

 剣虎曰く、対象となるのは二本とそれ以上の本数の剣を使って戦う場合限定。
 あえて二つに分けたのは、その二つで異なる効果が発揮するからだ。

 二本に限定して使う場合、斬撃など剣の性能を全体的に上げるらしい。
 これは剣虎の『剣歯』の影響を、受けているとか受けていないとか。

 ……ここまで言えばお察しだが、それ以上の利用は剣虎が生やす刃を表している。
 こちらは剣の性能は大して上がらないが、代わりに耐久度や操作性が向上するらしい。

「私はどちらの使い方もしますので、とても嬉しいです。このご恩はいずれ」

『あー、気にしなくていいじゃんよ。まあどうせなら、また来て戦ってくれ』

「なるほど、そういうことでしたら……いずれ訪れましょう」

『そうなったときは、必ずこっちが勝たせてもらうからな』

 ちなみに観戦者の三人は、セッティングをしたということで許可が貰えていた。
 ……そのせいかお陰か、なぜか彼らに俺は懐かれてしまったよ。


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