虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭前篇 その13



 俺とて一介の父親。
 息子と娘に恥じない振る舞いをしている以上、自分の欲を優先して子供を傷つけるなんてことはしない。

 というわけで、さすがに子供たちが巻き込まれそうになった鬼ごっこは中断し、一度浮上したのだが……。

『──ふむ、合格である』

 待ち受けていたのは獅子だった。
 ただしその体を形作るのは、透き通るほど澄んだ水。

「貴方が……この区画の守護獣様ですか?」

『名を『流獅フローライオン』と申す。汝の名は?』

 見ての通りのライオンで正解のようだ。
 水のライオンじゃなかったのは少し意外だが、たしかに流れを操っていたからなのかもな……と思う俺も居る。

 名前を聞かれたので答えるが、ここはやはりこちらの名前だろう。

「──『生者』です。お見知りおきを」

『そうか、汝が……なるほどな。とはいえ、汝を『生者』がゆえに合格にしたわけではない。汝の子を想い、己が欲を抑えることができる強さ。そこに我は合格を与えたのだ』

 どうやらしっかりと情報は行き届いているようで……うん、鹿の森獣の場所で派手に動かなくて正解だった。

 しかしまあ、合格を貰えたからよかったものの、もしあのまま強引にやっていたらどうなっていたのやら。

『無論、あのままやっていれば不合格だ。ただし、何らかの手段で子供たちに配慮ができていれば多少の加点はしよう。気づかれなければ合格、そうでなくとも恐怖を抱かせなければ許可は与えていただろう』

「なるほど、とてもよく考えられていたのですね。ご確認ですが、あそこに逃げ込むこともまた、流獅様のお考えなのでしょうか?」

『いや、アレは想定外である。我は子供でも我を追いかけることができるよう、能力値に応じた速度制限を設けているのだが……汝の場合、低い能力値であれだけの動きをしてはこちらも本気を出さねばならんかった』

 まあたしかに、あの速度で逃げられたら子供じゃ追いつかないよな。
 けど、それなら最初からもっとゆっくりでもいいと思うんだが……まあ、いいか。

「合格、とのことですが……私に与えられるものとはいったい」

『まずは先も語った許可。これを五つ集めれば、中央へ向かうこともできるだろう。そして、我の加護。不要だとは思うが、水の流れに乗りやすくなるぞ』

 俺が水中に居た際のことは、だいたい把握しているだろう。
 なので[称号]の恩恵が泳ぎやすくしていたのも、分かっているはずだ。

 貰っておいて損は無いんだけどな。
 セットできる[称号]に制限がある以上、なんでも使い放題というわけじゃないし。

 まあともあれ、ようやく一つ目か。
 これからまだ、最低四つも加護を探さないと聖獣様には会えないわけだな。


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