虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭前篇 その11



『──うむ、スペシャルタイムである』

 プール、そして滝を使った滑り台に荒波や勢いが生まれ始めた頃、そんな声がどこからともなく聞こえてきた気がする。

 その確認もできないまま、波が大きく変化し始めて何もできなくなった。
 ちなみにマジックハンドは弾かれ、もう俺の近くに魔核は無い。

 ……まあつまり、そういうことだろう。

「ぷはぁっ! さて、今度はこの中から見つけ出さないといけないのか」

 滑り台は曲がりうねるスライダー、プールも水が渦を巻いて波を生み出すエンター性を持つものとなっている現状。

 これらは間違いなく、森獣によるもの。
 意図的であろうと偶然であろうと、触れさえすればこうして特殊な状況を用意していくつもりなのだろう。

 水中から浮上して、一呼吸。
 死んで蘇生すれば不要だった呼吸だが、俺自身がそれに違和感を覚えているので、現実と変わらない動作を取ってしまう。

「魔核レーダーは……なるほど、速いな」

 これまでは隠れるために尽力し、速度そのものはだいぶ遅かったのだが……今は怒涛の勢いで魔核の位置が変わっており、普通に触れることはできなくなっていた。

 俺が場所を把握したうえで触れたことを察して、特定出来ようとも触れられない……そういった状態に切り替えたのだろう。

「なら、こっちも追いかけないとな。何か無いかな……ボートは無しだな。さすがに目立ち過ぎるし」

 海で使っていた『宙泳ぐ箱舟』、これがあればだいぶ便利だったが……さすがにプールで船を使うと言うのは、マナー違反にでもされそうなので止めておく。

 やはり身一つで追いかけるのが一番なんだろうが、それができないからこその虚弱な肉体なのでどうしたものか。

「『魔王の取腕』、これを使うか。使い方、教えてくれるか?」

《畏まりました》

 強者の持っていた権能、職業能力を複製して保存している武装。
 これを使えば、それなりにこの状況を打開することができる。

 問題は、これが『プログレス』の利用と同じぐらいわけが分からないこと。
 保存したデータを特定し、利用する方法がさっぱりである。

「──100%だけなら、なんとかできた。それじゃあ、【野生王】を起動!」

 周囲が自然に溢れていれば、身体能力に大幅な補正が入るこの職業。
 大森林の森獣が操る水の中、かなり補正が入ってくれるようだ。

「あとは【漁師】を【泳者】に変更して、泳ぐ速度をアップ。ついでにポーションで一時的にスタミナを底上げして……よし、これで準備は万端だ」

 視界に魔核レーダーの情報を反映するようにしたので、わざわざ確認せずとも視覚的に捉えることができる。

 さぁ、森獣よ覚悟しろ──絶対に捕まえてやるからな。


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