虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖獣祭前篇 その09



 水の中へ潜る。
 本来なら視界がぼやけて認識なんてできないはずだが、[称号]や職業能力の補正のお陰で通常通りに見ることができた。

 滝自体は滑り台になっているのだが、その上流はプールとなっている。
 それなりに深めなのだが、獣人の身体能力ならさして問題にならないのだろう。

 今も獣人たちが、ゴーグル型の魔道具を付けてだいぶ深い場所まで潜っている。
 分かりやすいイメージを挙げると、25mのプールが正方形だと思ってもらいたい。

《滝なのに、どうしてそこまで深いんだろうな。地球にも滝に窪みがあってそこで泳げる場所はあるけど、さすがに水深の方はそこまで無いはずだぞ》

《デビルズプールですね。水深は4mとのことです》

《……それでも死ぬには充分な深さだけど。ともあれ、こんな場所から森獣を探さなければいけないわけだ》

 まあこれだけ広ければ、どのような大きさであれ隠れることができるだろう。
 水なので森獣? と今さら思いながら、俺は手を動かし──動かし……動、かし。

《あっ、筋力が足りない》

《でしたら──》

《結界で動かすか。使い方を教えてくれ》

 俺の貧弱なATK及びSTR値では、水を掻くこともできないようで。
 普段できているように思えるのも、俺の意思を察した『SEBAS』の補助だしな。

 言われた通りに結界を動かすこと数分、どうにか泳ぐというか水の中を移動することはできるようになった……傍から見たら、違和感が尋常じゃないんだろうな。

 ついでに、思念での会話もここで切り上げておく……俺みたいな初心者は、まだまだ音声式の恩恵にあやかりたいのだ。

「さて、森獣はどこかな……?」

 探すために移動を始める。
 泳ぐような動きをしなければ、職業の能力補正を受けることができないので、体を動かさず結界で動くという方法は取れない。

 不格好でも水を掻く動きをしながら、人を対象にしない形で鑑定を発動していく。
 俺の鑑定は特別製、過去のイベントで得たとある魔道具を組み込んであった。

 それは自分との戦闘能力の格差に応じて、色を灯すというアイテム。
 組み込まれた結果、視認した相手との力量差が分かるようになった。

 ……まあ、結局誰も彼もが危険な色を示すので、大した使い方はできないんだけども。

「──なるほどな、そういうことか」

《視界すべてに反応があります。通常の鑑定では分かりませんでしたが、それ自体の森獣の力が宿っているため分かったようです》

「たぶん、看破性能が高いとかそういう奴も分かるのかもしれないな。なるほど、ある意味この場所すべてが森獣ってことか。水を操れる、そして水そのものである……そういう森獣なんだな」

 俺の知る森獣は、そのすべてが肉体を有していたのでその考えに至らなかった。
 つまりもう見つけていたのか……だが、どう接触すればいいのやら。


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