虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

大量発生イベント その14



 マイが連れていたスライムは、茶色をしていた……そして、甘い香りが周囲に漂う。
 周囲は驚きどよめく……さすがはマイ、俺もまだ見つけていない個体を見つけたか。

「マジか、チョコレートタイプが居るなんて新情報だぞ!」

「ふっ、それでこそマイだな。他とは違う、追随を許さない素晴らしいスライムだ。なんだか色艶からして、もうナンバーワン確定なフォルムだな」

「……否定しづらいな。何か特殊なアイテムが使われているわけでもないし、マジで純粋にそういうスライムなのかもな」

 マイは従魔系統でも最上位に属する職業に就いているので、何かしら強化に関する補正が入っているのかもしれない。

 もしかしたら、育成でしか辿り着くことのできない『調料粘体フレーバースライム』なのかもな。
 それなら野生でいっさいドロップせず、俺が見つけられなかったのも納得だ。

「跳ねる姿から揺れ動く姿まで、何から何まで素晴らしい。やっぱり、マイが育てただけあるな」

「……本当、マジで凄いな。レベルは固定されているはずだし、唯一の個体なら限界突破も能力値強化もできないはずだろうに。どうやってやったんだ?」

「あー、それはたぶんマイの職業スキルの影響じゃないか? 実際、従魔系の職業だと成長補正の他にも、一定以上のランクの従魔の限界を外すって能力もあるし」

「その線は俺も考えていたんだが、いちおう外していてな。マイちゃんは何体も従えているし、その分能力対象にも限界数があると思うんだよ」

 無制限に強化を施せるのであれば、それこそ大量の魔物を従えて無双する──【魔王】のようになってしまう。

 なのでマイの就く【調律姫】には、そこまでの性能は無く、代わりに別の部分で帳尻が合わせられていた。

「それに、限界突破だって一定値で止まるはずだし……おい、なんだよその顔」

「いや、何でも。ただ、思ってな……タクマでも分からないことは多いなって」

「そりゃあ、人間誰でもできることに限界はあるから…………おい、何か知ってるだろ」

「ん? まあ、そりゃあ本人から聞いたし」

 舞台ではマイが、スライムにチョコレートの生成をさせている。
 そのチョコレートもまた、スライムの色艶同様にとても美味しそうだった。

「──で、それはなんなんだよ」

「あー、何でも一部のパラメータを弄れば無制限にできるらしい。マイの場合は好感度、もともと爆上がりな数値を事前に下げられるだけ下げておいて、強化しているらしい」

「反抗しようとしても、他の従魔がいるから不可能か……他の数値でもできるなら、相当にチートだな」

 そんなこんなで、スライムの危険度鑑定も最上級で明滅している。
 やはり、ただのスライムとは違う……それができるマイが最高!

 予想通り、コンテストはマイが優勝で幕を閉じるのだった。


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