虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
アンヤク(02)
そこは小さな作業部屋。
大量の書類や魔道具が机の上に載せられ、部屋の主はそれらに目を通していた。
同時に、外部と連絡が取れる魔道具を用いてある報告を聞いている。
「そうか……やはり、逃げられたか」
『申し訳ありません。すぐに外部へ──』
「不要だ。指名手配は維持でいい、だが意図した公布は控えろ。あくまでも、個人の伝手で広まるように意識しておけ」
『りょ、了解しました』
魔道具の通信が途切れ、再びこの場に静寂が訪れた。
その者──ジンリは小さくため息を吐いた後、ぼそりと呟く。
「そう簡単には捕まえられないか。せめて、今回がどういったランダムプレイなのかを知ることができていれば、対策の質を上げられただろうに……」
ジンリにとって、ツクルは絶対に必要な存在だった。
それは、運という概念において無類の力を発揮するルリよりも高い重要度である。
「例の情報から考えると、『プログレス』の能力は他者の能力行使だろうが……ランダムプレイの結果という可能性もあるな。不死、物理透過、そして模倣……現状の最強は、やはりツクルだな」
ツクルは決して、強いわけではない。
EHOだけでなく、ほぼすべてのゲームでそれは言えた。
だがしかし、必ず何らかの分野で注目されるようなプレイヤーでもあったのだ。
与えられた過酷な状況下で、必ず何かしらの業績を出す──それが強みである。
ジンリにとって、自ら自分を弱めるようなランダムプレイは愚かだと思っていた。
それは今も、これからも変わらない価値観である……だがある一点では認めている。
──ツクルが行うランダムプレイならば、必ず想定を超えた結果を見せると。
「俺の『プログレス』は、ハズレだった。やはり、ランダムは使い物にならんな」
そう言ってジンリは、『プログレス』の能力──その派生を起動する。
名を“フレンドシップ”と言い、一点において優れた効果を発揮する能力だ。
「ツクルは……東か。目的は帝国か、あるいは仙人の山か」
自身が仲間と認識している相手の、場所を捉えることができるという能力。
ただし相手が場所を示したくないと無意識で考えていれば、その場所は不明となる。
ジンリは信用していた、自分たちのトップに立つ男が狭量では無いことを。
姿を晦まそうとも、居場所を隠すような男ではないと。
「暗殺者に連絡を回し、監視をしてもらう方がいいか……情報屋さえ話が通じれば、このような面倒事は無かっただろうに」
情報屋──タクマはツクルの情報料が残された分、彼の情報を秘匿し続けている。
そのためジンリはそちらから情報を得ることができず、別の伝手を辿るしか無かった。
だが、彼以上に優れた情報収集能力を持つ者が少なく、居ても伝手が無い。
ままならないことばかりだと再び溜め息を吐き、再び書類に手を伸ばすのだった。
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