虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

目的探し その05



「……なんで消えねぇ?」

 まあ、アレから何度も俺を殺そうとした後の台詞セリフである。
 アイテムがいっさいドロップしないこともあって、少しずつ疑っていたようだな。

 彼の反応と周囲の気配を探っていたが、その時間潰しも充分だろう。
 死体蹴りをして満足している彼に、こそこそと仕込みを行う。

「──“ベストペスト”」

 とある休人が得た、最悪の能力。
 名前は『最高の黒死病』だが、本当に使いどころを考えなければならない。

 現状では針型の『プログレス』を、相手に刺すことでしか発動しない仕様だ。
 しかも投擲などは不可能で、直接近づいて刺さないといけない。

「痛ッ……テメェ、何しやがった!」

「さて、何をしたんでしょうね。それより、私を殺さなくていいんでしょうか? お友達とご相談していただいても、構いませんよ」

「クソッ。おい、コイツどうする!?」

 俺を殺せない、そのうえ自分たちのことを知られている。
 それゆえに彼は、ただ放置するという選択肢を取れなくなってしまった。

 だから彼は仲間と合流する。
 そしてそれは、俺が狙っていた行動だ。

「──“グッドラック”」

 続いて起動させた『プログレス』は、毒や薬の改良を行う能力。
 それを先ほどの“ベストペスト”に使い、空気感染やその対象を弄る。

 ……そうじゃないと、また同じ目に遭いそうだからな。
 それでも使ったのは、彼らに俺を狙った贖いをしてもらいたかったからだ。

「なあ、エイトさん。アンタいったい、俺たちの仲間に何をしたんだ?」

「……さっき、ハッサムさんに感染菌を打ち込みました。感染条件は、彼とパーティーを組んでいる状態にあること。休人にしか感染しませんし、死に戻りしたら解消されます。はてさて、どうされますか?」

『っ……!』

「ちなみにポーションは飲んでも無駄です。こちらの方で、全員に感染菌が潜伏したことが確認できました。たとえ同時に飲んでも、皆さん同士で感染は巡ります。ちなみに、私が死んでも止まりませんよ」

 少しずつふらつき始めるPK集団。
 状態異常としては『発熱』や『頭痛』という現実のものから、『魔力阻害』や『放命』というファンタジーなものまで存在する。

 黒死病の症状に加え、この世界に合わせた症状が発病する。
 最高で最悪な病を生み出すことができる、それが発現者の望んだ能力だったのだ。

「て、テメェ……」

「私は貴方がたに恨みがあるわけではありませんので、この程度にしておきます。これに懲りて、『プログレス』ぐらいは警戒するようにした方がいいですよ」

 PK行為すべてを批判する立場に、もう俺は立っていない。
 彼らの行動もまた、『プログレス』を発展させる礎になっているのだから。

 PK、PKK、そして被害者……彼らの存在が新たな可能性を生み出す。
 それを願っている俺に、PKを止めろという資格などありはしない。


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