虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

旧クラン



 現実世界

 ソファに体を委ね、ぐったりとする。
 EHOプレイで凝り固まった体も、少しは和らぐだろう。

 氷を入れた冷たい緑茶をコップへ注ぎ、時間を掛けて飲んでいく。
 喉を通る感覚に脳までクールダウンした気分になり、一息吐いてから一言。

「……さて、俺は何をすべきなんだろうか」

 一周周って、何をすればいいか分からなくなってきた。
 これまでいろいろとやってきたが、最近の【生産勇者】で完全に燃え尽きてしまう。

「本当、たくさんやってきたよな……むしろここまで、ほぼノンストップでよくやり遂げたと自分を褒めてあげたい」

 世界を巡って『プログレス』を配り、激しい戦闘を繰り返し、天国ヴァルハラ地獄ヘルヘイムの両方を訪れたりと……何より、自分で開発した世界の管理をするとか並大抵の経験じゃない。

「ふふっ、どうしたの?」

「瑠璃……。いや、ほらやることを考えるのも大変だなって。自分で探さないと、見つからないんだよ」

 そんな俺の隣に、妻である瑠璃が。
 女神に懺悔をしたら、お導きがあるのだろうか……なんてことを思いつつ、心の内を吐露していく。

「そうねぇ、アナタはいっつもいろんなことばかりやって、楽しませてくれたわよね。けど、こうしていっしょになって裏ではいつもこんな風だって知ったわ」

「……ランダムを押して、それをどうするか考えていただけだからな。最初はそれを克服するために足掻く、その間はとっても充実した時間なんだがな。それ以降は、誰かといっしょに居ないとやることが無くなるんだ」

「いつもアナタが動くと、みんななんだかんだ言っても動いていたわね。そして、最後は全員で楽しかったと言って終わる。それが何度でも繰り返された……」

 そう、すべては過去の話。
 あの頃はEHOでも会った、キーシやハック、ロームたちともいっしょにいたな。

「クランの再結成……は、もう充分だな」

「たしかに素晴らしい考えだけど、それはたしかにね。あの世界の子たちを、遠ざけないといけなくなるし」

「騎士団ができている宗教団体だしな。俺は特に組織を作っているわけじゃないけど、交友関係的にどこかに所属するってのは避けたいかな。まあ、これはあくまで俺たち二人の考えでしかないけど」

 俺たちは成すべきことを、オンゲー時代にやり遂げている。
 これ以上を求めるようなことはしない……が、そうじゃない奴も居るだろう。

「──ジンリ君はやるわよね?」

「アイツはな……今頃どこで、何をしているのやら。今度拓真に聞いてみるか」

 かつては俺と瑠璃が所属していたゲームでの集団において、ほぼ必ず副リーダーとして実質的な代表者をやっていた奴。

 アイツならきっと、この世界でも復活させようとするかもな──『渡り船』を。


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