虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

対プログレス 中篇



「対策はまあ、いくつかあるぞ。戦闘系の権能持ちなら、容赦なく潰せばいい。そもそも今の『プログレス』じゃ、『超越者』の権能には届かない」

「レベルが足りないからか?」

「そう、レベルだ。俺の知るオリジナルは別だが、『プログレス』には何重ものセキュリティロックが施されていて、『超越者』に匹敵するなんてまだまだ先の話だ」

 俺だって別に、チートを授けたかったわけじゃないからな。
 段階的に進化させ、その過程で更なる渇望が生まれることを期待したシステムだ。

「その制限はどのように解除されるのだ?」

「人それぞれだな。単純な魔石の注入量、共に稼いだ経験値、激しい感情の揺れ……理論上、どんな手段であれ『プログレス』を身に付けていれば糧として蓄積されていく」

「ならば装備している者に限れば、奪うだけでいいのか」

「そうだな。外せばそもそも起動できなくなるんだ、俺としても移植をさっさとしてほしいからそっちを選んでほしい」

 魔石だけでも成長できるにはできるが、その成長が好ましいモノかどうかは微妙。
 ……自らを糧にしていない以上、俺の研究用サンプルになることに同意してもらう。

「話を戻すが、今はまだ未完成の代物だ。完全の域に辿り着いたなら、それは俺も把握できる。ちなみに今は、それが三つだけ存在している。そのうちの一つは、【魔王】だな」

「……なんてことをしたのだ、『生者』は」

「とはいえ、その能力は対『プログレス』に特化したモノ。現状ではそれを使っても、あまり『超越者』には有効じゃないからな」

 コピーする能力なので厄介ではあるが、そのコピーにも制限が存在する。
 そしてそれには隙が存在するため、そこを突けば無敵にはならなくなるのだ。

「で、非戦闘職は……まあ、魔道具で解決しようか。『騎士王』、こればかりは俺だと何もできない。協力してもらえるか?」

「何をするのだ?」

「救援用の魔道具を用意して、同意者が緊急で転移できるようにする。転移禁止だろうと直接座標を指定するから、そういう状態に陥ろうと助けに行けるだろう」

 星間の転移を行う場合など、時と空間以外にも次元を指定する転移なら可能である。
 たとえ迷宮などの亜空間であろうと、強引に乱入可能らしいからな。

「『騎士王』に頼みたいのは、それを許諾してくれるヤツだな。究極的に言えば、別にそれは『超越者』じゃなくてもいい。依頼としてやって、金を出すでもいいぞ」

「良いのか?」

「最近はだいぶ儲けているからな。それぐらいは、こっち持ちでいいだろう」

 ほぼマッチポンプみたいな状態だし、出費としては必要経費だろう。
 ……『薬毒』さんに迷惑を掛けたと考えると、支払って当然だな。


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