虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

ヘルヘイム その07



 黒霧が生みだしたのは、もっとも忌むべき例のヤツではない。
 霧と同じく真っ黒な──魚だった。

《『スーパーブラックフィッシュ』。旦那様の世界において、光のほぼすべてを吸い込む黒さを秘めた深海魚です》

「けど、この世界……というかこの場所だと名称からして違うんだろう?」

 目の前で泳ぐ魚を見て、そう思う。
 霧を水代わりにして自由自在に泳ぐコイツは、絶対に普通の魚じゃない。

《はい。個体名は『星黒輝魚ブライトスターフィッシュ』、世界に存在するありとあらゆる光を取り込むということで、疎まれ嫌われている魔物です》

「そりゃあ光源を奪うんだから、嫌われるだろうな……魔物な分、地球産のヤツよりも吸収率は高いんだろう?」

《吸収率は変わらず99.9%です。しかしその効果範囲が、尋常ではありません。自身の周りにある光は完全に、そうでなくとも近づいてくる光は根こそぎです。また、光を帯びた攻撃も一定の減衰が行われます》

「……チートだろ。武技も魔法もエフェクトが付いているんだぞ? それ無しで戦えってつまり、縛り強要じゃん」

 武器を介して強力な攻撃ができる武技も、魔力を望む形に弄って放つ魔法も。
 どちらだろうとエフェクトが発動の際に生じて、威力向上を表している。

 光を奪う魚にとっては、恰好の餌だよな。
 どうやら減衰されると威力の方も下がってしまうようなので、さらに倒しづらくなる。

 何より普通なら一度に出現する数が少ないだろうが、ここは冥界。
 黒霧から無尽蔵に生成されるその姿に、限りが無いだろうと思えてしまう。

「まあ、俺はどっちも使わないからいいんだけどさ。『SEBAS』、勝てるだろう?」

《当然でしょう。旦那様が求めるならば、最適解をご提示いたしましょう》

「ぜひとも」

 光を使ったら負けというわけじゃないが、間違いなくそこから逆探知はされるだろう。
 俺ならそんな厄介な相手じゃ勝てないだろうが……『SEBAS』なら、話は別だ。

 むしろその光を利用して、きっと何かする策ぐらい用意してあるはず。
 そうでなくとも、頼めばそれをやってくれるのができる執事の『SEBAS』だ。

「ふむ……じゃあ、最初はこれか」

 指示を[ログ]を見て確認しながら、やるべきことを実行する。
 その手に握り締めた、アイテムをしっかりと確認してから。

「おはよう! ──『万照の陽光』!」

 爆発するように世界が、光に染まった。
 そしてそれらを喰らうように、魚たちがそこへ急行する。

 これが第一段階。
 注意が逸れている間に準備をしないと……文字通り、世界が闇に包まれる前に。


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