虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

ラグナロク その14



「転移っと。ふぅ……機体から降りると、ずいぶんと身軽に感じるな」

 俺が[アライバー]に搭乗していた理由は二つある。
 一つは単純の強化外装として、もう一つは周りの認識を変えるためだ。

 フレイもだいぶ反応していたが、『生者』というか『超越者』は異常者という認識だ。
 つまりは本人自身を警戒しているので、他に意識を向けさせられない。

 というわけで、[アライバー]といういかにもな機械を纏ってみた。
 これでもかと『プログレス』と共にそれを使い、アピールをして……誤認させる。

 そもそも、『生者』自体は死んでも蘇るというだけの権能だからな。
 それは副産物であり、本当の強さは神からの賜りもの──万能の生産能力である。 

「『空翔靴』起動、『スピードスター』発動で“フルドライブ”」

 自分自身で作った空を歩く靴、そして移動速度を十倍×十倍──百倍まで高めることができる『プログレス』を起動。

「[モルメス]、『ゴーストボディ』」

 握り締めるのは魂を傷つける刃。
 起動するのは、肉体という枷から解き放つことができる『プログレス』。

 空を飛んで速度を高め、物理透過状態となる──傍から見るともう化け物だな。

「仕上げに──【暗殺王】」

 肉体が無くなったことで、霊体としてある程度自由な動きができるようになる。
 それを利用して、【暗殺王】の動きを一時的に再現する。

 奴はスライム、故に人型同士で戦っていた彼らからすれば初見殺しが過ぎるだろう。
 だが、生き残るためならどんな手段でも使い足掻く──それこそが『生者』だ。

「その結果は、必ず向こうに行くからな──さて、いつになったら始まるのやら」

 しばらくは暗殺業に徹することになる。
 そうして行動を繰り返していれば、ラグナロクにも多少の変化が起きるだろう……そうなれば、な。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 右目に映るのは神族、巨人、亡者たちがメス型の武器に切り刻まれる光景。
 それらは意識せずに、体が動くがままに透明な殺意を以って振るわれる凶刃の惨状。

 そして、左目にはそれとは異なる場所の様子が広がっている。
 仲間と共に力を合わせ、敵チームを着実に倒していく少女たち。

 ドローンの俯瞰した映像ではなく、先ほど飛ばした『プライベートアイ』の視界を共有することで得た、目に合わせた光景である。

「ふむふむ、まだ未発現か。そこまで強く求めてはいないってことだな」

 戦闘狂揃いの英霊たちならまだしも、彼女たち自身がそうとは限らない。
 少なくとも、彼女はそうではない……強いので、渇望もせずに勝ち続けている。

「っと。神族が出てきたな、やっぱりそっちだよなー」

 俺の敗北条件は、俺を蘇られないレベルまで滅する──もしくは、紐づけられた命を退場させること。

 つまりはそういうことだ……頑張ってくれよ、戦乙女様アインヒルド


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