虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
プログレス配布後篇 その19
天上世界 ヴァルハラ
各世界に繋がる異層の空。
さまざまな神話ごとに存在する世界の中でも、もっとも武闘派が集う場所。
俺はそこに招かれ……てはいないものの、いろいろと手続きを踏んで訪れ、ここでしか手に入らないアイテムを獲得した。
それからも、とある事情で連絡は取り合っていたのだが……今回、『プログレス』のことで少々揉めているようで。
「──そっちにも届いているのか」
「ええ、その通りです。異世界の神より、広められたのですが……まさか、貴方が生みだしていたとは」
「そこまで事情を知ってるのか。まあ、その通りだな。で、『プログレス』はどれくらい普及しているんだ?」
「どうして貴方にそれを教えなければならないのですか……そうですね、ポイントではなく直接神々より進呈されておりますので、一割にも満たないと思います」
彼女が語るのは、俺が居なくなり広まった『プログレス』関連の話。
これまで情報が無かったのだが……ここに来たら、その情報が入ってくるように。
たぶんだが、試供品というレベルなんだろう……創造神様が何をお考えなのかは分からないが、宣伝してくれているのかもな。
マスター系の能力は……この世界だとまだ発現していないようだ。
戦闘関連の能力ばかりなのは、やっぱり世界ごとに特徴があるからかな?
「なあ、アインヒルド」
「……なんですか? あと、名前を勝手に付けないでください」
「まだ嫌なのか? 借用書で俺にレンタルされているのに」
「うぐっ……それでも、です」
俺をヴァルハラの入り口で迎え入れてくれた彼女は、戦乙女のアインヒルド(仮)。
仮なのは彼女がそれを拒み、契約してもなおそれを貫いているから。
理由はとってもシンプルで──名を受け取ることが、永劫の契約を意味するからだ。
戦乙女たちが試練を提示し、クリアしたうえで名を告げる。
それを戦乙女自身が受け取れば、晴れて二人は結ばれる(システム的に)。
かなり便利らしいのだが……まあ、今の俺には関係ないことだな。
俺が名前を呼んでいるのは、単に他の戦乙女と区別するため。
他意は無かったのだが……彼女の有能さもあるし、専属にはなってもらいたい。
「とりあえず、俺は『プログレス』を配りに来たんだが……やってもいいのか?」
「受け取る受け取らないはともかく、行うこと自体は構わないですよ」
「……そういえば、ここはそういう所だったな。無謀でも、絶対挑んでくるよな」
ここは、生前に武による功績を成した英霊たちが集う地。
故に誰も彼もが戦闘狂、そのため交渉には必ず『(物理)』が付属する。
──渡すと言っても、まずは戦ってからという展開になるわけだ。
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