虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布後篇 その09



 目的地はすぐに分かった。
 もっとも大きな鍛冶場──太陽の火を模した灼熱の輝きを、ただひたすらに融かせない物を融かすためだけに使う贅沢の極み。

 隠れ里のもっとも奥地、ある意味隔離されたような場所。
 そこに居る山人の中でも、一番力強く槌を振るう者こそが──ここの長だ。

「お久しぶりです」

「…………」

「後ほど、お話をさせていただきたいので、時間を空けていただけないでしょうか?」

「…………」

 響き渡るのは、槌がアイテムにぶつかる衝突音だけ。
 俺の声も遮られ、届いたか分からない……だがまあ、そこは信じてみよう。

 話はまた後回しということで、これ以上集中の邪魔にならないようにこの場を離れる。
 そして、話しかける前に見つけていたとある人物に接触した。

「久しぶりだな、スリャ」

「……ツクルか。迷宮での冒険以来か?」

「まあ、そうだな……外、出れるか?」

 敬語を止めて話しかけるのは、この里の中でも希少な種族。
 あちらの隠れ里から、狙撃銃を得るために来ていた森人スリャングスだ。

「それは構わないが、ここでもいいだろう」

「いや、絶対に出た方がいい」

「……分かった、ならそうしよう」

 理由をなんとなく察してくれたのだろう。
 彼は俺の神妙な顔を見て、いっしょに鍛冶場から出てくれる。

 ──その背後に、鋭い視線を受けながら。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「『プログレス』が流行ったことで、ある種のブレイクスルーが発生した。どんな特殊な形状でも、どんな不思議な能力でも、それを全部『プログレス』の能力だって言い切れるようになった」

「……お前の権能もか?」

「ある意味な。『超越者』の権能はピーキーだが、ちゃんと法則性はある。ただ、それが別の世界というかズレているだけ。一人ひとり違う能力になる『プログレス』も、似たようなものってことだ」

 自分たちとはまったく異なる、扱うことのできない力。
 だからこそ『超越者』は恐れられ、それを警戒する機関が誕生した。

 しかしそれに対抗し、かつ『超越者』たちには使えない力が存在すれば?
 またその能力の法則性を理解できず、制御できない力ならば……警戒せざるを得ない。

「というわけで待たせたな──新作だ」

「……俺がわざわざここに居る理由を、聞いていないのか?」

「狙撃銃だろ? もともと地球の技術だ。いずれここでも開発されると踏んで、来たのは分かるけど……二つあっても困ることなんてないだろう?」

「…………そういうものか?」

 そういうものだ。
 彼の目的を台無しにするアイテムを、俺は譲渡するのだった。


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