虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

支配者会談 その20



 場所は変わって【情報王】が支配する、摩天楼が並び立つ領域。
 もっとも高い情報ギルドの頂上、その屋上で俺はポーションを飲んでいた。

「……とても美味しいんですよ。昔から味の改良はされていたそうですけど、それは不味い下級ポーションばかり。余計な物を入れたくないと、階級が上がれば上がるほど味のレパートリーが減るんですよ」

「何が言いたい」

「いえ、特に何も。ただ、人はその出来に満足してしまえば、停滞してしまうものです。死者を蘇生できる、あらゆる状態異常を解消できるポーションに、美味しさを求めることが無いのですから」

「馬鹿げている。そんなこと考えるのは、あらゆる世界において、お前程度だろうな」

 そう言って、ギルドビルのオーナーである【情報王】が近づいてくる。
 適当なグラスを追加で用意して、そこに液体を注いでいく。

「……万能薬か」

「ただの万能薬ではありませんよ。ささっ、どうぞグイっとお飲みください」

「……」

 自分で視た情報を疑うわけにもいかず、覚悟を決めて飲み干す【情報王】。
 そして、目を開く……うんうん、そういう反応が見たくて作ったのだ。

「酒、ラガー……いや、ビールか。星渡りの民たちが挙って開発していたな」

「物足りないようですがね。私のは、少々ズルをして完成させましたので、いずれ真に彼らの理想に迫った品をお楽しみください」

「味や喉越しはソレだが、万能薬である以上酔いはしないだろうからな…………だが、いい味だ」

「大人のポーション、という形で今度販売してみようと思います。もちろん、そちらは多少希釈してしまいますがね」

 酔わない酒、だがノンアルコールではないというのが酒好きにも向いている。
 決して酔わないわけじゃない、酔ってもすぐに回復するだけ。

 そのため、酔耐性や毒耐性のレベリングにも使える一品。
 効率厨たちも、しかたないと呟きガンガン飲むことになるはずだ。

 二人でポーションを飲みながら、上を見上げて語り合う。
 神代魔道具であるこの街の中は、天候なども地上に合わせて人工的に用意されている。

 今日は星々が輝く明るい夜。
 それらを眺めながら、本題に移る。

「結論から言いますと、案役街を利用しての不老不死は不可能です。そのことだけ、伝えに参りました」

「……そうか、ダメなのか」

「いかに肉体を霊子に変換しようと、限界がございます。保存にも限界があり、最後に残るのは【情報王】さんを知るナニカです」

 目的のすべてを知っているわけではない。
 しかし、これだけ伝えればまた別の計画を考えるだろう。

 少なくとも、無駄になる話に執着させない方がいい。
 ……今の状態だと、不完全な不老不死にしかならないことは事実だしな。


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