虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布前篇 その10


「──これでいいかしら?」

「まあ、充分だ。じゃあ……『プログレス』百機、進呈ってことで」

「とりあえず、これぐらいね。追加で用意してもらうには、どうすればいいのかしら?」

「ん? 何に使うんだ?」

 地下世界の情報を得る対価として、百機もの『プログレス』を売り渡した。
 それだけでも、『冥王』の配下に配る分はあると思うんだがな。

「先に言うけど、転売はダメだぞ」

「当たり前よ。ワタシのことを何だと思っているのかしら」

「言っていることは正しいけど、いろいろと隠しているヤツ」

「…………貴男の権能が、ワタシと非常に相性が良いことに感謝しなさい」

 死を支配する、それが『冥王』の権能。
 たとえ地下世界のどこに逃げようと、彼女の領域にある限りその存在は掌握される。

 だが、俺は『生者』。
 死神様から賜ったその力は、完全にその効果を無効化することができる……というか、死んでもすぐに蘇えられるからな。

「単なる餌よ。冥界で『プログレス』を所有しているのは、ワタシとその配下だけ。便利な力なんだから、欲しがる奴は無数にいる。あとはそれをコントロールするだけよ」

「……さっき聞いた世界の中に、面白そうな場所があったからそこには行くぞ。それをやるなら、範囲はここだけにしてくれ」

「分かっているわよ。ただ、どうせなら一度死んだらプログレスは剥奪してほしいわね。死後も欲しいならワタシに従う、そんなルールならどれだけ楽になるのやら」

「移植してない奴なら、たぶんそうなる。そこはユーザーの問題だし、好きにしてくれ」

 俺と『SEBAS』で作り上げた大作──それが『プログレス』なのだ。
 忌避感から移植はせず、かといって装備のみをし続けるならば……仕方がない。

 休人の場合、これから始める新人は全員移植していくことになった。
 それ以前の使用者も、装備枠を減らさず使える優位性から、移植することになる。

 ……まあ、彼らの場合は死に戻りをするだけなので、『冥王』のお世話になることがそもそも無いだろうけど。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 帰り道、統率された死者たちを見ながらふと思った。

「……『プログレス』って、使えない存在がいるのか?」

《ございません。霊体でも概念の塊であろうと、そこに『プログレス』と認識したうえで扱える知性さえあれば》

「……神様も、使えるんだよな」

《間違いなく》

 恩人……いや、恩神である皆さま方は、果たして『プログレス』をどうするのやら。
 いろいろと気になることを想いつつ、次の場所を目指すのだった。


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