虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス配布前篇 その04



「お買い上げ、毎度ありがとうございます」

「それはいいんだけど……えっ、埋め込まないとダメなの?」

「いえ、特に問題ありませんよ。ただ、奪われた場合は能力が発動できなくなるだけですので。詳細は説明書に載せてありますので、暇なときにでもどうぞ」

「うぅ……結構分厚いのに」

 お得意様用の『プログレス』説明書は、どこかの国の法律が書かれた本並に厚い。
 ……武器(鈍器)として設定してあるし、本当にそれで人を殺せるな。

 即断で【仙王】が『プログレス』の購入を決めてくれた彼女には、それを送った。
 発現しやすい能力の詳細なんかも書いてあるし、役に立つとは思うぞ。

 ちなみに格好と言うのは、とても脱ぎやすいパジャマ……猫耳のフード付きという、絶対に休人が絡んでいるデザインだな。

「『闘仙』さんは残念ながら、使うことができませんが……まあ、『超越者』は権能がありますので宜しいですよね?」

「……雑ではないか?」

「職業と種族の恩恵、それにスキルもあるうえに権能まで。生まれてしばらく、職業の恩恵にあやかれず、スキルも生産系のスキルと鑑定スキルしか無かった私からすれば、充分に恵まれていますよ」

「……そうか」

 嘘は言っていない。
 単純にアイテムや称号の効果でどうにかできていたこと、頼もしき『SEBAS』様が居たことなどを含んでいないだけで。

「ねぇねぇ、『生者』。アタシの能力って、いつ頃目覚めるの!?」

「さて、どうでしょうか……何もせずとも一日、意識的に呼び覚ませようとすればすぐにでも目覚めますよ。ただ、心の底から必要としないと難しいですが」

「……大人しく一日待つよ」

 もともと無くても良かった力を頼る、それができる者はそういない。
 仙術ってかなり便利だし、あらゆる仙術が使える【仙王】には不要なんだよな。

「リーシーさんの『プログレス』は、もう目覚めかけていますがね」

「えっ、早くない!?」

「……な、なんだかできてしまいました」

 片手に人参、もう片方の手に手袋を嵌めたリーシーさんだが、手袋に嵌められた宝石が鈍く輝いている。

 それは『プログレス』が一定以上の身体エネルギーを集め、本人識別としてスキャンを実行し始めた証拠だ。

「お陰で実物での説明ができますね。鈍く輝くのを止めたとき、『プログレス』及び補助機能のインストールが完了します。一部、私たちと同じように[メニュー]機能が使えますし、便利だと思いますよ」

「あー、それ便利だと思ってたんだよ。身力の消費が要らない収納空間とか、特に」

「【仙王】様……」

「王ならば、もっと他にあっただろう」

 瞬時に連絡が取れる[ウィスパー]とか、安否を確認できる[フレンド]とかな。
 その中でも、[ストレージ]を選択するとは……さすがは【仙王】である。


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