虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

マラソンイベント その12



 休人の中には、『プログレス』を上手く使い障害を突破する者が何人かいた。
 宝石状のアイテムでしかないが、しっかりと育てていればそれは無限の成長を遂げる。

 たとえばそう、俺の眼下で走る獣の姿こそがその一例。
 獣化スキルを取り込んだ『プログレス』、その成長は本体もちぬしを獣化できる形となったをえらんだ

「物理法則を無視しているよな……しかしまあ、使えているならそれでいいけど」

《形状変化は可能にしていました。ですが、それらは小型での検証。人ひとりが乗れるほどに巨大化したうえで、落とさないように重心を一定に固定するとは……私だけでは、指定されなければできなかったでしょう》

「何でもできるってのは、それと同時に一つに固執できないってのと同義だしな。ある意味『死天』だって、似たような感じだ」

 死ぬことで死因をアイテムにできる。
 そんな解釈の幅が広い権能なので、死に方は考えても応用にはなかなか手が行かない。

「その点、『破天』は壊す能力に特化しているから、それだけを高めればいいわけだ。事実、今じゃ空間だって破壊できている」

 特化能力の恐ろしい点は、その極地が初期能力からは想定できないところだ。
 ただ殴るだけのスキルが、最後には神だって殺せる域に至る……そんな感じでな。

 創作物の定番なんかで言えば──ハズレスキルがチートだった、みたいなものだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 マラソンも佳境に入っている。
 最後は妨害が何でもありな、無法地帯と化していた。

 これまた、俺は上空から観ているだけなので余裕だが……渦巻くエネルギー量は、リタイア者を続出させている。

「『プログレス』の性能を高める代わりに、時間制限を掛けた奴もいるのか……まあ、逃げようとするヤツは防がれているな」

 現在、ゴール前には巨大な壁が立ち塞がっているため誰もその先に向かえていない。
 その壁も『プログレス』によって、現界した堅固な守りの概念そのものだ。

 ただ速いだけの奴は事前に排除され、力ある逃走者も今回阻まれている。
 壁は幾重にも重なっており、異なる性質を有していた。

 一枚だけなら、その設置者は通ることができただろう……が、参加者が多いため同じようなことができる者がたくさんいる。

「それでも破壊できる奴は、やっぱりいるんだよな。『プログレス』はあくまで補助、しかも劣化版なわけだし」

 乗り物や建物の形を成す『プログレス』だけではなく、個人を象る物は多種多様だ。
 少年が一人、前に進み出る──その手には宝石が埋め込まれた剣が握られている。

「──アレだ。アレを解析してくれ」

《畏まりました》

 何やら力強く叫び、勢いよく剣を振り下ろす──壁はそれだけで、すべて吹き飛ぶ。
 それが『プログレス』だけによるものではないことは、すぐに分かる。

 少年の意思に応えた『プログレス』は、少年の意志を叶えるために武器となった。
 武器型の『プログレス』……俺では絶対に発現しない品である。

「……さて、俺もゴールしますか」

 壊れた壁から進んでいく休人。
 俺もこっそりと壁の上からゴールし、最上級の報酬を得ることが確定した。

 ……ズルとか言わないで、それなりに自覚はあるからさ。


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