虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

マラソンイベント その11



「うわっ、気づいた奴もいるのか。斥候系の職業……なるほど、魔力量で感知するタイプなら見つけられるか?」

 空に向けて意識を注ぐ。
 それだけ死んでしまうか弱い存在こと、ツクルでございます。

 自身が死んだことでバレたことに気づく。
 ある意味本末転倒な能力によって、そのことを俺は知った。

「理由はなんだろう?」

《機関の多用かと。一定量の魔力は漏れないように設定しておりましたが、どうやらその許容範囲で魔力を消費していました。使用する環境で、魔力の徴収率が下がることを計算していませんでした》

「俺がちゃんと、こっちの世界でも使う可能性を想定していなかったからだ。今度は、そのことも考えて使うようにしよう。今から調整することはできるのか?」

《問題ありません。すぐに再調整し、抑えます。しかし……完全な隠蔽は不可能です》

 世の中に百パーセントは存在しない。
 たとえ一時的にそれができたとしても、鼬ごっこの要領でそれは不完全と化す。

 こればかりはどうしようもない。
 技術の進歩とは、それと同時に異なる技術の衰退を意味する。

 より性能の高い隠蔽機能の誕生は、同時に従来の探知機能の衰退だ。
 それをどうにかするために技術は進歩し、今度は隠蔽が衰退しないよう発展する。

 ……たしかに広い目で見たその分野は発展するだろうが、過去の産物を必要とする者はいなくなるのだ。

「結界だって魔力の産物だしな。まあ、バレない限りでやっていこうか。というか……障害物も、だいぶ面倒なモノになってきたな」

《障害物がそれぞれ、一部の特化した方々への可能性を与えていますね。それぞれ純粋な力、巧みな技術、魔法のどれかで突破しやすくなっているようです》

「マラソンでそういう有利不利って、なんだかおかしいと思うけどな。けど、たしかに効果的みたいだな」

 火力が無いと突破できない壁、巧妙に配置された罠、物理攻撃を無効化しそうなスライムみたいな壁……まあ、障害は回復しないみたいなので、一度壊せばいいみたいだが。

「さすがにここの奴らは、全部を独りで突破することはできないみたいだな……例外も居るみたいだが」

 手段はさまざま、だができる奴はたしかにいる。
 まだまだ未完ではあるが、才ある奴らは強行突破していた。

「それでも、ここでただ速かっただけの奴は足止めを喰らうか……よし、次に行こうか」

 障害物の話をしたが、それは地上の話。
 本来は飛行禁止のこの競争で、結界の上を走る行動は想定されていないからな。

 障害物の無い安全な宙から、参加者たちを見下ろしながらそう思う俺であった。


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