虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

マラソンイベント その09



≪3、2、1──レディーゴー!≫

 ほんの少し、言葉の質が上がった掛け声と共にマラソンが始まる。
 その瞬間、いっせいに参加者たちはものすごい勢いで駆け抜けていく。

「……早いな。これが成長した生産職の力、俺が全然あやかれなかった恩恵か……」

 生産職が身体能力に直接関与する、敏捷力に補正が入ることは少ない。
 入ったとしても、他の能力値に比べると少ない場合が多い……ごく僅かなのだ。

 それでも、たった1しかない俺と比べれば充分な補正だ。
 下級職を卒業した経験者たちは、非戦闘職部門であろうと素早い速度で走っていた。

「三度目の正直だ。どうせなら勝ちたいし、全力で行くぞ」

《畏まりました》

 言葉の選択は少々微妙だが、原付きに乗って三度目の移動を開始する。
 初心者の戦闘職部門より距離は短いが、非戦闘職部門より難易度が高い道を進む。

 それらすべてを無視する、空から移動する俺の原付き。
 本来ならばペナルティを課せられるが、結界の上を『走る』ことで合法セーフになっている。

「魔物が出てくるか……本当、マラソンというより障害物走とかトライアスロンとか命名し直した方がいいと思うな」

 なんというか、本来のモノからだいぶズレている気がするんだよ。
 決して無いわけではないが、他の要素で覆われている感じがする。

 本来、上からの強襲用だったのか鳥系の魔物が配置されていた。
 光学迷彩で身を隠す俺だが、結界の反応を掴まれてしまい……突っ込んでくる。

「ここは俺……というか、コイツにやってもらおう。来い、『機銃[龍星]』」

 今の俺が求めるイメージに沿って、現れた機械の龍はコンパクトな姿になっていた。
 片手で楽々扱える、そんな拳銃型になった[龍星]を握って鳥たちに向ける。

「【見習い銃士】と【見習い狙撃手】、それらの正規職の補正もあって楽だな。元々武器側で補正されているのに、プラスだぞ? 職業持ちってのは、どんだけ有利な状態で戦闘しているんだか」

 役に立ちそうな職業の能力は、【救星者】のスキル“職業強化”によって性能を一部改変していた。

 ……残念ながら常時発動はまだだが、セットすればかなり便利な能力にしてある。
 命中補正や高速装填、衝撃緩和など無数の補正が行われていた。

「武技が使えればよかったのにな……まあ、これがあるからいいけど──『魔力弾丸』」

 弾丸を魔石から生成して、それを鳥たちに当てていく。
 威力や性質は魔石に依存しているが、最低品質でも鳥を撃ち落とすには充分だった。

「よし、どんどん行こう」

 大量の鳥が落ちていくが、休人たちはまだ遥か先を走っている。
 ……『光速機関』があっても、追いつけなくなるとは、恐ろしいな能力値補正って。


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