虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

見習い成長 その08



「……やっぱりか」

「くっ、『生者』。いったいいくつ用意してあるというのだ!」

「文字通り無限だ。必要なものは魔力だけ、けど回復する方が早い。送り先が一か所しかないから、コスパもだいぶ良くなった」

「お、おのれぇえええ!」

 いつものごとく、仕事から抜け出してきていた『騎士王』。
 俺がボタンを押して連絡するのを防ごうとして、激しく動いている。

 まあ、俺はボタンを複製して押そうとするだけだから簡単なのだ。
 ただ、それは手動ではなく自動で、しかも宙に飛ばした不可視のドローンもセットで。

 それに対し、『騎士王』は辺り一帯に妨害電波を飛ばして連絡を封じている。
 時間稼ぎをしている間にボタンを破壊し、複製をしている俺に駆けようとしていた。

「『生者』本人を崩そうにも、機械を壊さずに止めるのは難しいか……」

「壊したら最終手段で呼ぶ。せっかくだし、そのまま頑張ってくれ」

「くっ、誓ったからにはやるしかない……」

 俺はドローンや機械人形を操作しつつ、時折魔法を『騎士王』に施し支援もしている。
 一定時間ごとに休憩を用意して、職業経験値を得る時間を確保しながらだ。

 ……うん、遊んでいるだけなんだよな。
 いつもより高報酬を出して、全力とはいかずともそれなりに力を発揮してもらい、その支援を行うことで経験値を稼いでいる。

「──よし、一回休もう」

「ふぅ……なんとか防げたか」

「お疲れ。五回目だから……これか、一口サイズの果実だ」

「…………おかしくないか?」

 まあ、そうツッコまれて当然だろう。
 なぜなら渡した果実は、本当に楊枝を刺しただけの小さな物なのだから。

「不味かった、それか報酬足り得ないなら詫びるし終わりにしよう。けど……俺はそれに価値があると言うぞ」

「ふむ……ならば、試させてもらうぞ」

 そう言った『騎士王』は、果実を口の中に入れて咀嚼し始め──驚愕を浮かべる。
 そりゃあそうだ、アイスプルでもっとも貴重な果実の一つを選んだのだから。

「こ、これはいったい何なのだ!?」

「──銀の林檎、その劣化版だ。食べると一時的に不老長寿になる」

「……これはまた、とんでもないモノを報酬として出してきたな」

「まあ、食べた量も少しだから、そこまで効果も無いだろうけど。味の方も、結構美味いと思うんだが……どうだ?」

 うちの神・世界樹が実らせる果実の中でも、比較的安全な物を『騎士王』に食べさせた。
 中には不死にしたり、出すだけで周囲に諍いを生んだりする実もあるからな……。

「じゃあ、次に行こうか。そろそろ終わらせたいし、分配もできてきた」

「そうか……この果実が食べられるのであれば、もう少し働いてもいい気がしてきたな」

「……いや、お前が働くのは国の王様としてだからな」

「くっ、そうはさせん。そうはさせんぞ!」

 結界を張っているため、俺たちの攻防は串焼き屋の店主にしか知られないのだった。


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