虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

スキル探し 中篇



 本当は忙しいはずなのに、毎度のことながらヤツはそこに座っていた。
 だからこそ、迎えが来るのだが……とにもかくにも『騎士王』は、俺を迎え入れる。

「おお、『生者』か……」

「『騎士王』、スキルの習得って器が限界の奴でもできない?」

「いきなりだな……不可能だと思うが?」

 面倒な挨拶はすべて省き、必要な点だけ済ませておく。
 そういった気遣いもできる『騎士王』なので、すぐに回答してくれた。

 器の限界。
 それは『SEBAS』が言っていたことだが、これ以上何も成長できないことを指す。

 レベルを上げたり、特殊な儀式を行うことでそれは拡張できるのだが……レベル999に至り、『超越者』にもなっている俺は完全に器が目いっぱいまで拡張されていた。

「そっか。じゃあ、もういいや。俺はもう帰るから、その辺で──」

「逃がすか!」

 軽く挨拶をして、そのまま後退した俺を逃さない『騎士王』。
 なんだかよく分からないが、おそらく転移でも使って俺を引き寄せる。

《他者への強制的な転移、そしてそれを個人のみをピンポイントで狙う的確さ……なるほど、勉強になります》

「……『SEBAS』でもそう思うほどか。というか、無駄使いにもほどがある!?」

 コイツがその気になれば、軽く地面を蹴るだけで俺に追いつけたことだろう。
 転移対策かもしれないが、今までの付き合いでそれを使わないことは知っていたはず。

 ──単純に、やりたかったんだろうな。

「できないと分かった以上、もうここに居るようはないんだが?」

「そういたずらに先を急ぐでない。スキルそのものは得られずとも、同等の力を振るうことができればよいのだろう?」

「……装備とか、従魔が代わりに使うとかそういう感じか?」

「いいや、あくまでも『生者』自身が使うのだぞ。私には必要のない技術だったが、それでも今の『生者』にはピッタリだろう」

 全能にして万能の権能、『騎士王』を持つ彼女ならば要らないもの。
 それがいったい何なのか、それを説明してくれる。

「──職業スキルが職業に付随した、後付けのものだということは知っているな?」

「ああ。だから俺は、どうにかスキルが使えているわけだし」

「同様に称号や祝福でも、スキルやスキルの能力のみが与えられる。成長しないのは、それが本人の体に定着することなく外付けのものだからだ」

 ごく稀に、進化や派生を起こすものもあるのだがな、と『騎士王』は補足した。
 そして俺は、そんな称号にちょうど心当たりがある。

「『超越者』か……」

「そう、それもまた希少な成長する称号だ。本来それは世界のシステムが生みだした、救済策……だが人はいつの世も、そういった領域に手を伸ばす」

「……つまり、人為的にスキルを定着させた何かを付与できると?」

「似たようなものだ」

 毎度毎度、そういうことを『騎士王』はなぜ知っているのだろうか?
 まあ俺も俺で、『騎士王』だからと納得しているんだけどな。


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