虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

星霊獣 中篇



「というわけで、ここを潜ってくれ」

『……これは?』

「世界樹の洞だ。理論上、ここを通るだけでどんな精霊でも精霊獣でも進化できる。ただ一つ、明確な意思が必要という点を除けば、完璧なシステムだろう」

『明確な、意志……』

 世界樹の内部は意思を持たない精霊──いわゆる微精霊──たちが毎秒生み出されており、それらが奔流となり外部へ放出される。

 そこを通ることで、微精霊たちを取り込み進化を促すことが可能なのだ。
 だが失敗すれば、微精霊たちに呑まれて意思を持たない彼らに溶け込んでしまう。

「ある意味、ちょうどいいんだけどな。イピリア、お前は目的を決めた。そのことが本当なら、成功するはずだ。まあ、これじゃなくても構わないんだけど」

『おい、貴様がそこまでする必要はない。アヤツの言葉を鵜呑みにするでないぞ!』

『……いや、やろう。我は決めたのだ、このような試練、乗り越えてみせよう!』

『ツクル……貴様、覚えておけ』

 これが終わったら、あとでお説教タイムになるんだろうな。
 しかし、今はやるべきことを行う……風兎もそこは見逃してくれるみたいだ。

「こちらも全力でサポートする、だから覚悟だけで構わない。どういう自分になりたい、そういうことを考えておいてくれ」

『ああ、やってみよう』

「それじゃあ、さっそく始めよう──奥へ」

 促すとイピリアは、覚悟を決めて祠がある洞の中へ進み……体を還元していく。
 光の粒と化して世界樹に取り込まれたイピリアは、やがて実となって生まれ変わる。

 洞から出た俺と風兎。
 だが風兎の目は、明らかに俺を訝しむ視線で見ていた。

『……すべて、想定内のことか?』

「いや、『SEBAS』はできると言っただけだ。一体を生むだけより、進化も同時にした方がいいとも言っていたし……まあ、全部がイピリアのためと言えないのが現実だな」

『そうか……』

 イピリアそのものが触媒に混ざっているので、彼の経験も取り込んだ新たな星霊獣が誕生することになるだろう。

 俺はその礼として、存在の格を一つ上の段階へ昇らせようとしている。
 それを教えなかったのは……意識することは一つに定めてほしかったからだな。

「俺も『SEBAS』も全力でサポートする所存だ。それに、ある意味創造は:DIY:で補正も掛けられる──すぐ分かる、イピリアは己に打ち勝ったってな」

 スキルの名を告げ、:DIY:を起動する。
 高められた能力値が、僅かでも成功率を上げることを信じ──『SEBAS』と共に、作業を行うのだった。


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