虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

古代会談 その06



「動き出した北区の代表さん。現在の彼は、その身に暴れ狂う東区の代表であるサウロポセイドンの力を宿しております。そして、そこから繰り出される動きは──万夫不当!」

『あそこまで動けるモノなのですか……なるほど、魔力の強化量を微調整することで、鎧の補正をわざと不規則にしているのですね』

「制御できないのであれば、制御できないなりに使えばいい。人族は失敗を成功にするのが上手いですからね……今、攻撃を巧みに躱して北東区の代表に接近!」

『彼はどちらかというと統率に能力を伸ばした個体。今の彼が相手となると……分が悪いですね』

 北区の代表である古代人『代表』が使う槍は、かつて初代の代表が拾った骨を研いで作り上げた物だと聞いている。

 それを調べてもらったところ……かなり強かった個体らしく、それを武器としたことでこれまで古代人たちが、強者に狙われても凌げていた一因だったようだ。

 槍そのものが威圧感を放ち、魔物たちを追い払う。
 そして、強者との戦いになれば……目の前の光景を彼らにも見せるのだろう。

「槍は決して折れず、どれだけ無茶な扱いにも耐えられます。今の強化された動きにも合わせ、また呼応するように力を増して他の区画の代表たちを襲います。ヘノプスさん、あの攻撃をあなたならどうしますか?」

『……耐えきれなかったからこそ、儂は一度敗北しました。彼の槍は始まりの獣にして、不適合者。刹那に生き、その糧を以って世界に貢献した名もなきもの・・・・・・……そう、儂は伝えられておりました』

「真価を発揮したあの槍は、あらゆる攻撃を貫く牙となります。水を操る南東の代表も、さまざまな虫の力を振るう南西の代表も、頑丈さにおいて比類なき北西の代表も、あの槍の前では敵いようがありません!」

『ですので、共闘を行いました。北東の代表が敗北したことで、その危険度を上げたのでしょう。しかし、忘れてはいけません──人族は、自分が勝てると認識するまでは動かずにいて、ここぞのタイミングで勝利を得ることでこれまで生きてきたことを』

 ──何より、この箱庭の世界を守護獣から奪い去ったのが古代人たちであることを。

 魔法を、超音波を、剛腕を、槍一本ですべて捌いていく。
 あの槍は『ユニークモンスター』の遺骸、しかし誰が討伐したでもない遺物。

 それゆえに、MVPなどが選出されることなくただ遺体だけが残る。
 古代人たちはそれを手に入れ、加工することで武器とした。

 彼らは知らなかったのだろう──それが、どれだけ奇跡的なことだったのかを。

「純粋な性能を保ち、世界に還元されることもなく。生前の力をそのまま振るう槍は、扱うに足る力さえあれば最強の座を担い手に与える。それこそが──『代表』の力です」

『魔法を撥ね返し、一振りで虫をすべて吹き飛ばし、拳を槍で砕きましたか……あのときにこの力が使われていたら、間違いなく存在ごと消されていましたね』

「優勝は──北区の代表! これにより、この世界の長は『代表』さんとなりました! このあとは、バトルロイヤルを通しての解説となります。皆さん、チャンネルはそのままでお願いします」

 さて、これが終わったら全員に下に向かわないと……言っておかないといけないことがたくさんあるからな。


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