虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

古代交渉 その12



 南西の荒野は恐竜たちの生息しづらい環境で、生き抜くために省エネ特化となった生物たち──つまり、虫が居る。

 古代において、生物の巨大化は酸素濃度が今よりも高かったかららしい……なお、実際に高いと『SEBAS』が教えてくれた。

 なので、休人でも呼吸するだけで最悪死ぬなんて事態に陥ってしまう。
 ……俺は結界越しに酸素を調整しているので、問題なく活動できているけど。

「虫と会話ねぇ……今さらだが可能か?」

《巨大化、そして魔力の存在がありますので知性を持つことはあります。それそのものに関しては、すでに原理を解明してあります。意思の伝達は可能となるでしょう》

「ああ、ゴーレムよりも面倒臭いのか。もし姿がアレそのものだったら、全力全開で叩き潰すことにしよう、一体ぐらい居なくても、ここに代わりの存在を置けばいいし」

《よろしいのですか?》

 アレは殲滅すべき存在だ。
 そこに慈悲など必要ないし、そもそもするという考えがない。

 ……どうか平穏な交渉を行うためにも、アレ以外の姿をしていてもらいたいな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 南西区画 荒野

 そこは虫たちの楽園だった。
 至る所に存在し、宙を舞い地を這い、俺の神経をゾクゾクと震わせる。

「どうにか耐えられないかな……そうだ、視覚情報を弄ってくれないか?」

《畏まりました。どのようにしますか?》

「デフォルメして、ぬいぐるみみたいにやってくれると助かる。あと、知性持ちの虫は上にマーカーを頼む」

《仰せの通りに》

 サングラスかコンタクトレンズで、俺は常に『SEBAS』からの視覚サポートを受けているのだが……今回はそれを応用し、見たくない物を隠してもらうことに。

 そして歩き、マーカーの付いている虫を探していく。
 大量の虫に襲われるが……その姿はぬいぐるみなので、なんだかファンタジーっぽい。

「──いた、あれか。けど……あれって、種族的に何なんだ?」

《『原初魔虫オリジンインセクト』。すべての虫の根源にして、魔力の糧に生き続ける古き強者です。ただ、あの個体は先祖返りしたものですね。その因子が先の神練を経て目覚めたのでしょう》

「……で、あそこに大量の虫が集まっている理由は?」

《文献に記された情報によると、種族性質としてあらゆる虫への絶対命令権を宿しているとのことです。同時に、自身の配下となった虫や条件を満たした虫の能力を行使できるとのこと》

 虫版の【獣王】ということか。
 種族の【王】は、同胞たちの能力を使える場合が多いというし。

「じゃあ、挨拶する…………か……」

 若者(?)なので、また少しばかり交渉が難しくなるかもしれない。
 それを見るまで、俺は楽観視していた……見つけてしまったのだ、ヤツの姿を。


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