虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

家族冒険 その08

連続更新です(12/12)
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 扉を開いた先、そこは俺が『SEBAS』に用意してもらった部屋。

「ここが……父さんの望んだ場所」

 何もない真っ暗な世界。
 澱んだ重たい雲が空を覆い、それ以外のすべての存在を否定した場所。

 ただし、それは過去にあった世界であればの話……今回居るここには、あのときとは違い巨大な扉が設置されている。

「そう、これこそが俺がみんなにもやってほしくて用意した場所──『再起の間』! ここで何をするのか……もう、みんな知っているとは思うけどな」

 俺が望んだのは、誰でも俺と同じ体験ができるようにというもの。
 ある意味、少しだけショウとルリの合作と同じようなものだったので心配だった。

「セバヌス、解説を!」

「畏まりました──『再起の間』は旦那様のこの世界での生涯を、誰でも体験できるようにした空間です。世界創造、神の試練、異世界など、本来では経験できないことに関する知識を得るのが主な目的となります」

「……家族に関してはこれが目的だ。前に、46アースの話もあったし、実際に星を救おうとしたらどうなるか体験してほしい」

「なお、擬似的にとはいえ星を救えればそれは称号を得ることに繋がります。ショウ様の【剣星】と同じレア度に該当します」

 俺の想像をはるかに超える効能、なのかもしれない。
 現在就いている【救星者】、ショウの就いている【剣星】など【星】が付くと何かしらの強い能力が付いてくる。

 前者であれば職業の恩恵を擬似的にあやかるもの、後者であれば剣を用いたときの最大限の補正……などだ。

「あなた、家族にとっては学ぶ場所。なら、それ以外にはどうなのかしら?」

「ん? ああ、結構単純だ。『SEBAS』の協力で、アイプスルの領域を冒険世界アドベンチャーワールドでも発生させることができる。それをすれば、あることができてな……そのときにここを用いると、相手に経験を押し付けられる」

「経験を、押しつける?」

「つまり、お父さんが死んだり死んだり死んだりしている経験を、他の人もしなきゃいけないってことでしょ?」

 マイ、大正解である。
 それは理不尽ではあるが、“精辰星意”の力があればできること。

 もともと冒険世界で体験していることが多いので、そういうところも繋がっている。
 弱体化の効果を抑えれば、代わりにリアルな幻覚を押し付けることができるらしい。

 なぜそうなるか、そこは『SEBAS』しか分からないことだ。
 俺に理解できるのは、ただ弱体化させるよりも相手に何かを学ばせられるということ。

 ──まあ、とりあえずは遊びたがっているショウに楽しんでもらおうか。


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