虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

休日開放戦 その02



 行軍が始まった。
 幸いにして、進路は南……東だったら、逃げていたかもしれない。

 最初に訪れる『S1』は、初心者用の区画である『E1』よりも少し難易度が高めだ。
 地上からだけでなく、天空からも魔物が襲い掛かってくるため初心者は苦戦する。

 が、しかし。
 そんな小さなレベルの心配を、ルリを崇める騎士団にする必要などない。

 下っ端級の騎士でも、魔物と一対一で戦いあっさりと勝利している。
 空に居る魔物であろうと、攻撃(武技)が空へ飛ぶため武器種に関わらず戦えていた。

「お見事です」

「この程度であれば、騎士団に所属する者は傷を負うことなく勝利して当然。私たちは教祖様の剣……心配をさせるようなことがあってはならないのです」

「よく分かります。守りたい者を不安がらせるようでは、守護者失格です。私も家庭では心配を掛けない振る舞いを心掛けています。子供たちの目はとても敏感ですので」

 なんて会話を騎士長とするぐらいには、だいぶ余裕があった。
 斥候のような役割を務める団員が、辺りの警戒をしているからだ。

 今回の目的は人々に多大な迷惑を掛ける犯罪者休人を、死に戻りさせることにある。
 一度罪を犯した状態で死に戻ると、とある罰則が発動するからだ。

 だが罪を犯すことで何らかのしがらみから解き放たれ、彼らは並々ならない力を持つ。
 なので近隣の人々から救援が求められ、それにルリの教団が応えたというわけだ。

「しかし、罪を犯す休人が……これまでも、そうした者たちを処した経験が?」

「はい、何度も。彼らの大半が、『げぇむ』だと喚いて抵抗していましたね」

「……命が軽いからこそ、そのような言動と行動ができているのです。彼らには、その罪の重さを知ってもらう必要がありますね」

「それは……もちろん、できたら助かるのですが、彼らの存在は神々が認めたもの。それは、現人神で在らせられる教祖様もです」

 EHOという存在が無ければ、俺たちはこの世界に触れる機会など無かった。
 この世界を訪れた俺たちは、さまざまなことをこの世界で知ったはずだ。

 善いことも悪いことも、現実ではできないような壮大な体験。
 だからこそ間違える……この世界は、この世界の住民のものであることを。

「分かっておりますよ。しかし、それでもできることはあります……少なくとも、彼らが易々と罪を犯せなくなるように縛りを設けるという形で。そして、痛みを知らぬ肉体に痛みを思いださせてあげましょう」

 痛覚緩和も機能に入っているので、普通は軽減している。
 それを強制的に現実と同じレベルにしたなら……どんな反応をするんだろうな?


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