虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

世界樹進化 後篇



 世界が揺れ、『真・世界樹』が輝くという本来ありえない星の異常事態。
 この世界の住民である魔物たちも、全員がここに集合していた。

『本当に大丈夫なのか!?』

「理論上は……だがな。まあ、そろそろ始まると思う──見ろ!」

『おおっ、これは……!』

 世界樹全体が光っていたのだが、だんだんとその光が集束しだしたのだ。
 それはゆっくりと上へ上へと昇っていき、自然と俺たちの視線もそちらへ向く。

《旦那様、ご報告が……下を確認してみてください》

「下? 下って……うわぁ」

 それは根の麓、いつの間にかできた大きい空洞を指しての発言だったのだろう。
 遠くから見るだけでも、何かの建物ができたように思える。

 そして、他の場所でも変化が起きていた。

「おい、風兎……祭壇が」

『今はそれどころでは……はぁあああ!?』

「キャラがだいぶ崩れてきているな」

『ど、どうなっているんだ!?』

 俺が作った簡易な祭壇……というか神壇、それがいつの間にか世界樹と同様に光を放ち始めている。

 仏壇サイズの小さな祭壇のはずだったんだが、それは光が少しずつ膨らみ──なぜか大きくなっていた。

「ってことは、まさか世界樹も?」

《いえ、『真・世界樹』はどうやら二つの性質を進化によって身に付けたようです。一つは神や星により根深く干渉する力、もう一つは──上をご覧ください》

「上……なんだありゃ、果実なのか?」

 はるか空の彼方にできた小さな実。
 先ほどまで世界樹を包んでいた光は、どうやらそこに集まっていたようだ。

 眩しく輝き、太陽と思えるほどの光を放つそれは少しずつ成長し──枝から墜ちる。

「ドローン部隊、回収して来てくれ」

《畏まりました──ドローン出陣》

 重力の力で少しずつ加速するその果実を、ドローンたちに取り付けた目の細かい網で確保してもらう。

 回収されたそれは、幻想的としか説明しがたい色に輝くリンゴのような物だった。
 基本的には赤なのだが、黄金やら白銀やら宝石のように鮮やかに光っているし。

《知恵の実。食べたモノに善悪の知識をもたらすとされる実……ですが、この世界の場合は単純に、生命体の賢さが上がります》

「どれくらいのレベルだ? 俺でも分かる感じで説明してくれ」

《──赤子がノーベル科学賞、この場の魔物たちが【賢者】といったところでしょう》

「マジで凄いな!?」

 そんな実を、魔物たちは物凄い視線で狙って……はいない。
 色が変わる怪しい実よりも、美味しい果物がこの世界にはたくさんあるのだから。

 地球の神話では、原初の人間が楽園を追放されたとされる実だが……この世界でなら、禁断となんて呼ばれずに済むかもな。


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