虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

運天の改華 後篇



 渡された虹色の花の結晶、『運天の改華』という職業を書き換えられるレアアイテム。
 その最初に使うべき職業の名を考え、ついに口を開く──

「──【魔法士】」

 すると、握り締めていた『運天の改華』が一瞬輝き俺を包み込む。
 それはすぐに治まり、元の状態に戻る。

「どうだ、『生者』」

「……はい、【見習い魔法士】へ就くことができるようになりました」

「ほぉ、むしろこれまでは就いていたことが無かったのか。しかし、なぜその職業に就いたのだ? てっきり、【見習い錬金士】に就くと思っていたのだがな」

「ははっ、それは『錬金王』さんにお任せしましょう。それにです、生産系の職業に関してはしっかりと育ててありますので。これを選んだのは単純に、魔力の運用方法を考えた結果ですよ」

 魔力999というのは、多くはあるがチートというほどではない。
 検証組と呼ばれる奴らが調べて、能力値の限界は基本的に四桁と分かったようだし。

 だがそれでも。そんな彼らが調べた魔法発動に必要な魔力は、最高でも三桁で収まる。
 ならば、俺も新たに魔法が使えるか試してもいいではないか。

《──【見習い魔法士】の職業スキルは、魔力操作に補正を掛けます。残念ながら、魔法そのものを扱えるようにはなりませんが……派生が生まれれば、可能性はあるかと》

 こっそりそう伝えてくれる『SEBAS』の言う通り、それは分かっていたことだ。
 ちなみに、【見習い】はカンストさせれば次の職業へ行ける……狙いはそこである。

 これまでの職業は何かしらの条件を満たす必要があったが、【見習い】から正規職……つまりその三文字が取れた職業は、ただレベルを上げるだけで就くことができるのだ。

「もう少し魔力MPの操作能力を向上させ、生産に関する技術を向上させたいですしね。その後は前衛職に就き、精気APの方にも精通したいと考えています」

「それはいい考えだ。精気を混ぜることで、品質や性能を向上させるアイテムなども多く存在する。試してみる価値は、あるだろう」

「はい、試せるモノはすべて試しますよ」

 ちなみに、【勇者】のカンストはまだまだほど遠いのでしばらくお休みだ。
 逆に、【見習い】系の職業はカンストに必要な経験値量が極端に少ない。

 まあ、見習いだからそこまで時間を掛けたくないということもあるのだろう。
 実際、うちの家族は一回目の会議終了後、ログアウトするまでにカンストしたし。

「しばらくは物にするために時間を要してしまうでしょう。『錬金王』さん、よければ預かっていていただけないでしょうか? もちろん、使用しても構いませんので」

「……本気か? 先ほど使ったばかりで、もう手放すというのは異常だぞ」

「一度使ってしまえば、私の目的は果たしたようなものです。今後の用途については、まだ考えてしませんでしたので……そちらをお願いしたく」

 解析したい、そう目が訴えていたのが何よりの理由だ。
 自身がそう思っているだけあり、最終的には『錬金王』はこの提案を受けいれた。

「必要になったらすぐに言うのだぞ。こちらもすぐに返却する」

「そのような機会があれば」

 すでに一度目の使用で、【見習い】職はすべて解放されたと『SEBAS』から報告が入ってきている。

 ──うん、もう用済みなんだよな。


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