虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

迷宮イベント その10



「うーん、踏破終了っと……」

 あれからやったことは、『白帰の大雪原』とほぼ同じなので説明する必要は無い。
 すでに迷宮核ダンジョンコアから情報を取り終え、帰還したのが現状である。

「しかしまあ、なんともやりがいに欠けると言うか……」

 無双、その言葉が妙に似合う踏破だった。
 もともと単独での行動しかしていなかったこともあり、そうならなければならなかったわけではあるが。

「うーん……かと言って、休人といっしょに行くのもな……家族はその例外」

 誘われればすぐに乗るだろう。
 しかし、そういった連絡は来ないのでそのままを貫く。

 不干渉というか、やっぱり異なる冒険をしてその共有をする方が面白いと感じているのが理由なんだろうな。

「──よし、探すか」

 思い返せばパーティープレイなど、貢献イベントの際にエルフのスリャングスと行ったものぐらいではないだろうか?

 誰かといっしょに行動することは極めて稀にあったが、それでもただ移動手段を共にするだけだった場合が多い。

「迷宮ギルド……正直、冒険ギルドとの違いが分からないんだが、今回はここを頼ることにしようか。『SEBAS』」

《畏まりました、ルート案内を開始させていただきます》

 視界に現れたルート表示の矢印に従って、俺は移動を開始する。
 その際、さまざまな者たちにカモと見られてアイテムを盗まれ──裁きを降す。

「なんでこうも、俺は弱いんだか……誰も救えやしないよ」

《旦那様》

「ああ、分かってるって。なら、そもそもこういうことをするなってだけだしな。因果応報、天罰覿面。それを人がやっちゃっていいかはともかく、犯罪行為はいけないからな」

 他の者に被害が及ぶかもしれない行為だ。
 なればこそ、正当性を保ったまま俺の行いは許される……誰でもない、俺自身に。

「って、重いな俺の思考。やられたから仕返しをしただけだしな……それよりも、迷宮ギルドだった。『SEBAS』、ちょっと説明してくれないか?」

《畏まりました──迷宮ギルドとはその名の通り、迷宮に関する事柄を専門にするギルドです。冒険ギルドが人の領域を広げるために創られたモノに対し、迷宮ギルドは人の利を増やすために創られたモノです》

「領域と利、ねぇ……」

《階級ごとに異なる色で呼ばれ、迷宮に関する依頼をこなしていきます。異常個体イレギュラーの駆除や迷宮の攻略、また核の支配などです》

 ちなみにアイプスルの迷宮でも、異常個体と呼ばれる迷宮の支配を受け付けない個体が出たことがあった。

 だがすぐに『SEBAS』に鎮圧され、人工的に異常個体が生まれるために必要な要素の研究に協力している……俺も立ち会って、不自由が無いように努力はしているぞ。



 そして、まだまだ『SEBAS』の説明は続く──なぜなら目的地が、それなりに遠い場所にあるからだ。


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