虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

至上の甘露



 始まりの街

 やはりというかなんというか……納品を行い、それから街を歩いていると遭遇した。

「久しいな、『生者』よ」

「もうこのやり取りも飽きたし、普通に止めないか? ……面倒」

「め、面倒だと!? それに、今回はいつもとは違うではないか!」

「……ある意味変わらねぇよ。いつもと変わらない、面倒な奴らとの絡みだ」

 それは『騎士王』の肩に居た。
 真っ白な肌や羽、銀色の瞳などを持つ……小さな妖精。

 つい先日封印から解き放ち、そして別れたはずの『白氷』がそこに。

「ふーん、結構口が悪かったんだね」

「どうせ気づいていたんだろう? 俺だってそれは分かっている。だがそれを指摘する間柄でもない奴を相手に、いちいち本音を晒す必要もないさ」

「たしかに……その通りだね!」

「『生者』……あまり、そういった偏った思考の押し付けはやらないでもらいたい」

 そこまでおかしいだろうか?
 誰だって、気の許せる相手にはそういった口調を取るものだろう。

 俺のそれはその前段階。
 信頼や信用が無くとも、寛大な相手にならばいちいち気を使わなくて良いではないか、という考えなだけだ。

「で、どうして二人がいっしょに?」

「私が呼びだしたのだ。『白氷』とはしばらく連絡が取れていなかったゆえな……だが、いつの間に『生者』は死徒と闘い眠れる妖精の救出など、演劇に語られるようなことをしていたのだな」

「……チッ、知られたくなかったんだがな」

「まあまあ、落ち着いて落ち着いて。特製のかき氷をあげるからさ……って、結構大きいカップを出すんだね」

 2L入るマイカップを取りだし、そこにかき氷用のサラサラな氷を入れてもらう。
 ……隣で食べたそうな顔をしているので、ついでに『騎士王』用のカップも渡す。

「ぶー、本当だったらキンキンに冷えた氷のカップを渡そうと思ったのに」

「あとは特製のシロップで……完成っと」

「『生者』、私もいいだろうか?」

「ね、ねぇ、それ甘いわよね? 絶対にそれ甘いわよね!?」

 用意したのは煮詰めた甘さの極みとも呼べる液体、それを適度に薄めたみぞれだ。
 水飴や砂糖、あとは万能の甘味でもあった『真・世界樹』の樹液とかだな。

 まずは『騎士王』に少量を掛け、それからさらに水を零す。
 それを口に含んだ『騎士王』は驚く……当然だ、薄めてもなお甘いんだからな。

「なんだこれは……かつて妖精の女王に頂いた蜜よりも甘いのではないか? しかも、水で薄めてもなおとは……」

「こっちには原液で!」

「……死ぬからダメだ」

「死!? ……分かった、今回はとりあえず薄めてちょうだい」

 それを食べた『白氷』は喜んだものの、やはりより甘いならばどうかとこちらをチラチラ見てくる……本当、脳が甘すぎて死ぬから止めた方がいいんだよなー。


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